人間不信になった僕。異世界で勇者はじめました。

NO≠NAME

第1話 異世界への召喚

プロローグ ——信じることが、できなかった

 信じることが、ただ怖かった。

 傷つくくらいなら、誰にも期待しなければいい。

 裏切られるくらいなら、最初から一人でいた方がいい。

 大学生・**日向 蓮(ひなた れん)**は、静かな教室の隅に座っていた。

 スマホの画面には、サークルのチャットが流れていたが、そこに自分の名前はない。

 「ごめん、ちょっと忙しくて」そう言って断った飲み会のあと、彼のいない場所で笑い合う仲間たちの写真が投稿されるのを、ただ見ていた。

 裏で自分がどう言われているのか、もう気づいている。

 「ちょっと空気読めないよね」

 「距離感おかしいって」

 笑顔で近づいてくる人間ほど、心の奥にはナイフを隠していた。

 何度も信じようとした。

 でも、その度に裏切られた。

 だから、蓮はもう“人”を信じないと決めた。

 「こんな世界、消えてしまえばいい」

 心の奥でそう呟いたとき——世界が、本当に消えた。

 突如、教室の天井が光に包まれ、足元が崩れ落ちる。

 まるで空間ごと引きちぎられるように、蓮の身体は異界へと引きずり込まれた。


「……これが、“勇者”?」

 目を開けた先にあったのは、金色の髪を編み上げた女騎士の冷たい視線だった。

 その後ろには、魔法陣を囲むようにして並ぶ人々。王冠を戴いた老人、法衣を着た神官、そして数名の兵士たち。

「……召喚、された……?」

 蓮は呆然と呟いた。

「はい。我が国が、魔王討伐のために呼び寄せた異界の勇者……そのはずですが、まさか一人とは」

 女騎士が軽く舌打ちする。

 召喚は「複数人」のはずだったのだろう。だが、なぜか異世界に転移したのは蓮一人だった。

 「……どこだよ、ここ……」

 召喚された世界「ルディアス」。

 そこは魔族と人間が対立し、長く続く戦乱に疲弊した地だった。

 蓮に与えられた役目はただ一つ。

 「勇者」として、魔王を討つこと。

 だが——彼にそんなものは期待されていなかった。

 魔力も平均以下。剣も握ったことがない。

 召喚した国は、蓮に「宿と飯」を与える代わりに、監視と軽蔑を与えた。

 ——そして蓮は再び、“人”を信じられなくなりかけていた。

 そんなある夜。

 王都の片隅、ひとり座り込んでいた蓮の前に、少女が現れた。

「あなた、召喚された人でしょ? だったら、少しだけ付き合ってくれない?」

 赤髪の少女。背中には大剣。笑顔には嘘がなかった。

 名をリア・フェルスという。

 その出会いが、蓮の運命を変える最初の一歩だった。

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