死亡フラグ満載の妹の兄に転生した俺、妹を守るために最強を目指す

おとら

第1話 自分が主人公の兄であることに気づく

はぁ、面倒なことになった。


慣れない執務室で作業をしているが、ため息しか出てこない。


すると、近くにいた母上が申し訳なさそうにする。


「ごめんなさいね、アレス……」


「いや、別に母上が謝ることじゃないですよ」


「でも、貴方ばかりに負担が……ゴホゴホ」


「ほら、具合良くないじゃないですか。さあ、休んでください」


すると、すまなそうな表情をしつつメイドに付き添われて母上が部屋から出て行く。

母上は元々体が弱かったが、父上達のせいで心労が祟ってさらに悪化した。

俺はそれを見送った後、慣れない書類作業に戻ることに。

そして数時間が経過し、小休憩を取る。


「ふぅ、こんなところか……しかし、父上と兄上がいっぺんに死ぬとはな。お陰でめんどくさいことになった」


「いや、本当に大変でしたねー」


「おい……何を普通に茶菓子を食ってる?」


振り返ると、いつのまにかシノブがソファーに座ってお菓子を食っていた。

傷みなど一切ない長い黒髪をポニーテールにし、忍び装束を着ている。

スタイルも女性らしく、可愛らしい容姿だが……それは関係ないので、その顔を鷲掴みにする。


「いたたっ!? 暴力反対ですよー!」


「それはそう。だが、時と場合による。それより、俺にもお茶を用意してくれ」


「はいはい、わかりましたよー」


相変わらずのお調子者である。

一応、俺に忠誠を誓うメイド兼護衛のはずなのだが。

ひとまず用意してもらい、改めて話題を変える。

実はシノブにはあることを頼んでいた。


「それで、調べていた件は?」


「お父上とお兄さんは完全に自業自得って感じみたいですねー。功を焦って命令違反をした上に、味方を危険に晒したとか。つまり、誰かの罠とかにかかったわけではないです」


「そうか……全く、困ったもんだ。これで、賠償金も正当な理由だな」


父上と兄上は当主と次期当主揃って戦争に参加し、敵にやられて帰らぬ人となったわけだ。

俺は反対したし、そもそも当主と次期当主まで行ってどうする。

俺が行くことを提案したが、『そんなに自分の手柄が欲しいのかと』と言われる始末。


「幸いにして戦争自体には負けなかったですけどねー」


「ひとまず痛み分けといったところか」


「それで、今後はどうするんです?」


「俺が聞きたいわ」


俺は物心ついた時には父上と兄上と仲が悪かった。

可愛がられた記憶もないし、会えば舌打ちをされたり。

だから、はっきり言って死んでも悲しくもない。

なので十五ですぐに家を出て、そこからは学生をしつつも冒険者として生計を立てていた。

なのに今更跡継ぎがいないから家を継げだと……たまったもんじゃない。


「冒険者活動は続けます?」


「稼ぎが必要だしな……ただ、頻度は減るか。どちらにしろ母上は放って置けないしな」


「えへへ、なんだかんだで甘いですからねー」


「ほっとけ」


母上だけは父上に反対されつつも、分け隔てなく優しくしてくれた。

それもあり、俺は家を継ぐことを了承したわけだが。

ただ申し訳ないが家を盛り立てようとか、そういう気は一切ない。

すると、ドアノックの音が聞こえる。


「アレス様、少しよろしいでしょうか?」


「セバスか、遠慮なく入ってくれ」


許可を出すと白髪にオールバックの老紳士が現れる。

祖父の代から我が家に仕えている執事長のセバスだ。

軽く六十歳を超えるが、まだ背筋も伸びて仕事も出来る。

人柄も優れているし、本当に我が家には勿体ないくらいの人材だ。


「アレス様、何やら屋敷の前に女の子がウロウロしていると報告がございます」


「……物乞いかな?」


「確かに格好は綺麗とは言い難いですが……兵士が言うには、お母さんにここに行きなさいって言われたとか」


「ふむ、たまに聞く話ではあるが……ひとまず俺が行くか」


遠い親族だったり、元々縁があった家が頼ってくることがある。

もしくは昔お世話になった家に対し、祖父などが困ったらうちにと言った可能性もある。

真実ならば無下には出来ないので、とりあえず当主である俺が確認したほうがよさそうだ。


「では、私がお供しましょう」


「忙しいのにすまない」


「いえいえ」


父上達のせいで我が家は多くの賠償金を支払い、使用人はほとんどいなくなった。

故にセバスや母上には、苦労をかけてしまっている。

俺自身の蓄えも使ってなんとか潰れる事は避けられたが……踏んだり蹴ったりだ。





そんなイライラを抱えつつ、屋敷を出て門に向かうと……そこには可愛らしい女の子がいた。

痩せているがおそらく十二歳前後、 目はぱっちりで可愛らしく、燃えるような赤髪が特徴的だ。

不安そうにしている女の子に、俺はゆっくりと近づく。


「こんにちは、お嬢さん。ここはミストル男爵家の屋敷だけど、うちに何か用かな?」


「え、えっと……お母さんが病気で死んじゃって……それで、最後にお手紙をくれたんです」


「ふむふむ、それでうちの名前が書いてあったってわけか。とりあえず、見せてくれるかい?」


「は、はい……」


恐る恐る女の子が手渡しできたので出来るだけ優しく受け取る。

そして、内容を確認し……思わず手紙を握りつぶしてしまう。

その中身は娘に対する謝罪と、

その名前は我が父上、アドルフと。


「あっ……!」


「っ……すまない……だがこれは……セバス、ローラという名前を知ってるか?」


「……もしや……まさか」


激情を抑え込みつつ聞くと、セバスが明らかに困惑する。

つまりは、この手紙は信憑性が高いということだ。

それがわかった時、俺の胸奥から激情が溢れかえる。


「あのクソ親父が……」


「ふぇ? え、あっ……」


女の子が戸惑っているが、俺はそれどころではない。

ただでさえ母上に頼りきりで、貴族や当主としての役割を果たしていなかった。

傲慢で自分が正しいと疑わない、そんな父親と兄上が大嫌いだった。

その上に……隠し子だ。

しかも子供の年齢的には、母上が体調を崩していた辺りか。


「アレス様、落ち着いてくださいませ」


「……ああ」


「それで如何なさいますか?」


「それは……」


こんなの母上に言えるわけがない。

きっと、傷つきながらも母上なら受け入れてしまうだろう。

ここで追い返してしまうのが一番だと思った時……頭に何かが流れてくる。

それは俺ではない記憶の本流で、日本という場所で暮らしていた時の記憶だった。


「っ……!?」


「アレス様?」


……そうか、そうなのか。


今、ここで物語が始まったのだ。


この


そして思い出す……俺は主人公の兄というキャラとして転生したことを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る