【世界最強の水魔法使いモブ】~前世、親に恵まれなかった僕が、大好きなゲームのモブに転生し、魔法の常識を覆して自由に生き……あれ?優しい家族と一緒に成り上がり?~
くーねるでぶる(戒め)
第1話 地獄と極楽
「ぶあああああああああああああああああああああああああああん!?」
ベシベシべシッと連続で走るお尻への衝撃と痛み。
なんだここは? 地獄か?
さっきまで天国みたいな場所にいたのに、なんで地獄に落とされるんだ!?
いったい僕が何をしたっていうんだよぉ……。
◇
まず、温もりがあった。
まるで全身ぬるま湯に浸かったような心地だ。冬場のおふとぅんだってこんなに優しくはない。
ドッドッドッという規則正しいリズムは、僕に安心と眠気をもたらす。
ずっとここにいたい。
でも、なんで僕はこんな優しい空間にいるんだろう?
たしか、大好きなレトロゲー『レインボー・ファンタジー』の記念すべき千回目の完全攻略クリアをして、達成感を胸にベッドで横になったはずなんだけど……。
体が思うように動かないし、目もあまりよく見えない。
やっぱり五徹は無理があったかな?
ゴールデンウイークなのをいいことに、ぶっ続けで『レインボー・ファンタジー』をプレイし続けたのがよくなかったか……。
でも、寝食を忘れるほど面白かったんだもん。仕方がないよね?
本当にここはどこなんだろう?
そんな疑問が覚醒と睡眠を繰り返す頭の中で浮かんでは消えていく。
ぬるま湯のような環境に激変が起こったのは、しばらくした後だった。
突然、体を拘束され、まるで全身をぞうきん絞りしているような苦しみを味わうことになる。
まさか、これが地獄というやつなのか?
たしかに僕はあまりいい人ではなかったかもしれないけど、特に悪さもしていないんだけど……。
そんな僕の態度に怒ったのか、今度は極寒の寒冷地獄だ。寒くて寒くて堪らない。
手で自分の体を抱こうとしても、全然腕が動かない。
どうする? どうする!? このままでは死んでしまう!
その時、お尻に強烈な衝撃が走る。
「ぶえっ!? ぶああああああああああああああああああああああああああああん!」
泣いたよ。大の大人が、恥も外聞もなく泣いた。
だって、わけがわからないところがさらに状況が悪化するんだもん。泣きたくもなる。
ぞうきん絞り地獄でダメになってしまったのか、それとも涙のせいか、視界はぐにゃぐにゃで役に立ちそうにない。
でも、どうやら今の僕はめちゃくちゃデカい巨人に足を掴まれて宙吊りにされているようだった。
きっと、これが地獄の鬼なのだろう。この後、むしゃむしゃ食べられるのかもしれない。
でも、予想とは違い、鬼は意外と丁寧な手つきで僕をザリザリの硬い布のようなもので包んでいく。
あれかな? 踊り食いじゃなくて、ちゃんと調理しちゃう系の鬼かな?
その時聞こえたのは、嬉しそうな鬼の言葉だった。まるで歌うように抑揚がある知らない言語だ。
当然か。ここは地獄なんだし……。
「びえっ!?」
最初はわからなかったけど、僕は今、それに気が付いた。
なんと、もう一体鬼がいたのだ。これまた大きい鬼だ。横になっているのか、意外と低いところに頭があって存在に気が付かなかった。
僕を掴んだ鬼が、獲った獲物を見せびらかすように横になっている鬼に僕を見せる。
「あわわわわわわわわ」
その時、横になった鬼が、ゆっくりとした動作で僕の頭を撫でた。
「ぴ?」
その動作には優しさ、もっと言えば深い愛情のようなものを感じた。
そんなまさか、ね?
その数日後、僕はそれが勘違いではなかったと知ることになる。
◇
やぁ。僕の名前はたぶんキース。
みんなが僕を見てそう呼ぶのだから、たぶんそうなのだろう。
とはいえ、合ってるかどうかはまだわからないけどね。
「キース」
今も十七、八歳くらいの黒髪の少女が僕を愛おしそうにキースと呼んで頭を撫でてくれる。今はお乳の時間なのだ。
そう。お乳。
どうやら僕は、赤ちゃんに生まれ変わってしまったらしい。
ちなみに、この黒髪の少女が僕のお母さんらしい。あの地獄のような体験はどうやらお産だったようだ。率直に言って、まさに地獄かと思ったよ。
僕を出産したばかりだからまだ体が辛いだろうに、それでもこうして僕のお世話をしてくれる。
その愛情は本物だと思う。
まだ視界はぼんやりするけど、視力も上がってきた。抱き上げてくれると少女の顔がくっきりと見えるのだけど、本当に幸せそうな顔をして僕の頭を撫でてくれるんだ。
断じて言うけど、僕は人のこれほど幸せそうな顔を見たことがない。
前世、日本にいた頃の僕は、親というものが信じられなかった。父親は毎日酒を飲んでは僕に暴力を振るったし、母親はそれを冷ややかな目で見るだけで止めようともしなかった。
両親にとって、僕は邪魔な存在でしかなく、毎日懺悔をしながら惨めに生きてきたことを覚えている。
子どもの頃の僕には、それが普通だった。自分が悪い子だから両親に嫌われているのだと思い込んでいた。
悪いのは自分で、両親は悪くない。そう思い込んでいたんだ。
それが普通じゃないと知ったのは、だいぶ後になってからだった。
知ってしまってから、僕は人というものが信じられなくなった。
クズな父親と母親だったと思うけど、外面はよかったからね。ますます人間不信をこじらせたよ。
だというのに、僕はまた人を信じてみようと自然と思えた。
だって目の前の少女は、本当に幸せそうな顔で微笑むんだ。
僕がいる。たったそれだけのことで本当に幸せなんだと思う。
僕はまだ赤ん坊だ。粗相もするし、自力で動くどころか、起き上がることさえできない。
そんな僕なんかのために、少女は見返りを求めず、懸命に愛を注いでくれる。
僕は泣き叫びたいほどの幸せを感じていた。
まぁ、少女を困らせちゃうから今は我慢するけど。
背中をポンポンと優しく叩かれて、ケポッとゲップをすると、少女は乱れてしまった衣服を整える。
その後、ドアに向かって声をかける少女。
すると、待ちきれないとばかりに勢いよくドアが開き、茶髪のヒゲを生やした筋肉モリモリの大男が現れた。
鬼のような子どもが泣いてしまう外見をした彼こそ、どうやら僕の父親らしい。ヒゲを生やしているからわかりづらいけど、たぶんまだ二十代のはずだ。
そんな大男が、緊張した様子で僕を覗き込む。そして、不器用な笑みを浮かべてみせた。
大男のそんな様子に少女が笑ってペシペシと彼の肩を叩く。
大男が困ったような表情を見せ、そして、なんだか和やかな雰囲気になった。一家団欒と言った感じだ。とても幸せな雰囲気に満ちている。
これが、僕の求めていたものなのかもしれない。
◇
僕は赤ちゃんとはいえ、さすがに両親もずっと僕に構ってはいられない。
おそらく両親の寝室の中。チャイルドベッドの上で僕は独り取り残されていた。
たぶん、僕が寝ちゃったから二人とも席を外してくれたのだろう。でも、少女がいない。それだけでとても悲しい気持ちになる。
でも、僕は泣かないよ。精神はこれでも大人だからね。
しかし、一人でただ横になっているのは暇だ。ここにはおもちゃもないからね。することがない。
そんな時、僕は体の内側に意識を向ける。
ちょうどおへその下辺り。そこになんだか温かいものがあるんだ。
日本にいた頃、前世では感じることのなかったものだ。だからその存在に気が付くことができた。それはとても硬い粘土のように少しずつだけど動かすことができた。
僕は暇だからそれを動かして遊んでいるのだけど、最近は少しずつ粘土のようなものが柔らかくなってきた気がする。
これって、外に出せないのかな?
「うぅ~~~~~~~~~~~!」
僕は一生懸命、体の中の粘土のようなものを腕に、そして指先の方に移動していく。
そして、指先からちょっと出た瞬間――――!
「ひあっ!?」
顔の前に持ってきていた指先からチョロチョロと水が出た。まさか水が出るとは思わなくて思いっきり顔にかかっちゃったよ。
でも、なんで水なんて出たんだろう?
もう一度試してみると、やっぱり指先から水が出る。
もしかして……僕って超能力者?
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