第2話 幻臭の扉〜The Scent of Lies 〜

霧を抜けると、冷たい石の門が立ちはだかっていた。


門の隙間から、甘く温かな香りが漂い出る。それはまるで母のおっぱいに包まれるような、心の奥をほぐす匂いだった。


仙人が杖を掲げた。

「ここは“幻臭の扉”。香りが心を試す。胸で感じ、胸で見抜け」


重々しい音を立てて門が開く。

白い霧が流れ込み、一行の視界を奪った。

柔らかな空気、だが胸の奥を締めつけるような圧力。吸い込むたび、心が熱を帯びていく。

どこからともなく、花と乳のような芳香が渦を巻き、感情の底をかき混ぜた。


「……この匂い、なんだか落ち着く♡」

ミルクが頬を染めながら呟いた。


「危険だ」

パイタロウが警告する。 


だが、遅かった。

香りは仲間たちの心へと染み込み、記憶と感情をかき混ぜ始めた。


マローネが突然、鋭い目を向ける。

「ミルク……あなた、そのデカパイで勇者を惑わせてるんじゃない?」


「えっ、なにを言ってんの!? そんなの違うもん!」

ミルクの声が震える。


「その優しさは偽りよ。あなたのおっぱいのぬくもりで、誰の心も操れる」

マローネは鋭い目をミルクから離さない。


グラマラスが冷たく笑う。

「ふん、理性ぶっても結局は嫉妬だな」


「なんですって!? グラマラスだって胸を揺らしてるじゃない!」


空気がピリつき、怒りの香りが漂う。


チェストが慌てて間に入った。

「やめろ! これは幻臭のせいだ!」


だがミルクが振り向く。

「……チェスト、あんたが臭いを放ってるの?」


場が凍った。


「はあ!? 俺が!?」


マローネが睨む。

「確かに、あなただけいつも平然としてる。まるで皇帝のスパイみたい」


「ふざけんな!」

チェストが叫ぶ。

「俺は仲間だ、信じろよ!」


怒り、疑い、悲しみ。香りはそれらを混ぜ、渦巻かせる。


温かいはずの香りが、今や心を乱す毒へと変わっていた。


ミルクの瞳が潤む。

「信じたいのに……信じられない……」


マローネが震える声で言う。

「理性が……崩れていく……」


グラマラスが拳を握る。

「胸が重い……おっぱいまで乱されてるみたいだ!」


パイタロウは胸に手を当てた。

(この香り……仲間の“想い”そのもの。優しさも、恐れも、全部混ざってる)


するとミルクが微笑み、手を伸ばす。

「ねえ、もう戦わないで……みんな放っておいて2人だけで帰ろ♡パイタロウちゃんだって疲れてるんだから♡」


マローネが囁く。

「あなたの正義は独りよ。皆、もう離れていくわ」


グラマラスが笑う。

「仲間を守る? それで誰を救えたんだ?」


チェストが怒鳴る。

「お前の理想が、みんなを苦しめたんだ!」


パイタロウは膝をついた。

「……違う……みんな、そんなこと言わない!」


胸の奥から光がこぼれる。


それは仲間と過ごした日々。笑い、涙、そしておっぱいのように温かく包み込んでくれた絆の光。


「この香りは……疑いじゃない。信じたい心が、歪んで映ってるだけだ!」

パイタロウが剣を掲げると、刃が淡い光を放ち、霧を切り裂いた。


霧が弾け、光の中に仲間たちの姿が見えた。


ミルク、マローネ、グラマラス、チェスト――みんながそれぞれ、幻と戦っていたのだ。


幻の影を打ち砕き、傷だらけの笑顔で、パイタロウを待っていた。


チェストが叫ぶ。

「おせえよ、パイタロウ!」


マローネが微笑む。

「私たちもみんなの幻と戦っていました」


ミルクが胸を張って言った。

「あたし、パイタロウちゃんにすっごくひどいこと言われたんだから!♡ でもすぐ偽物だってわかったもん♡」


グラマラスが笑う。

「全員、胸の奥でつながってたんだな」


パイタロウは剣を収め、仲間を見渡した。

「みんな……ありがとう。信じ合うことが、俺たちの力だ。どんな香りに惑わされても、胸の光は消えない」


ミルクが頬を拭いながら言った。

「……信じてる♡ もう誰も疑わない♡」


マローネが頷く。

「私も。」


グラマラスが微笑んだ。

「まったく、勇者の言葉って……胸に響くわね」


チェストが笑う。

「どこまででも一緒に突っ走るぜ、リーダー!」


その瞬間、香りが変わった。


濃霧が晴れ、柔らかな光が差し込む。

それは母のおっぱいのように優しく、胸の奥から世界を包む香り。

空に声が響いた。


「よくぞ幻臭を乗り越えた。そなたらに“真実の嗅覚”を授けよう」


光が一行の胸を照らし、霧が完全に消えた。

空気は澄み、香りは透明へと変わる。

パイタロウが深く息を吸い込んだ。

「……もうわかる。偽りの匂いは、どこにもない」


ミルクが微笑む。

「胸が、やっと軽くなったね♡」


チェストが拳を握る。

「次の扉へ行こう。俺たちはもう、何にも負けない」


霧の残り香が風に溶け、淡い光の粒が空に舞った。

それは希望のように胸を温め、仲間たちの心に静かに灯り続ける。

五人は歩き出す。胸の奥に“真実の嗅覚”を宿して。


そして、次なる試練「縄文の扉」が、静かに開かれようとしていた。

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