第9話

入学して間もなく、湊はゼミ仲間の中で一人の女子と仲良くなった。

 森川紗月(もりかわ・さつき)。快活でサバサバしており、誰にでも気軽に話しかける性格だ。


「藤堂くん、文学部っぽい顔してるよね」

「文学部っぽい顔ってどんな顔だよ」

「ちょっと影があって、でも優しそうなやつ!」


 彼女の明るさは、悩みがちな湊にとって救いのように感じられた。


 一方、琴葉の周囲にも新しい人間関係ができていた。

 佐久間蓮(さくま・れん)。大学院生で、作曲を専攻している。知的で落ち着いた雰囲気を持ち、指導役として琴葉と接することが多かった。


「橘さんの音は、聴いてると情景が浮かぶんだ」

 そんな言葉をさらりと口にする彼に、琴葉の頬は赤らんでいた。


 湊はそれを知らない。だが、徐々に琴葉のLINEの返信が遅くなり、会う回数が減っていくのを感じ取っていた。

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