第3話

放課後の体育館。舞台の中央で、琴葉と透が台詞を交わす。透は堂々としていて、感情を自然に載せられる。琴葉は最初こそ緊張していたが、次第に透のペースに導かれるように演技に馴染んでいった。舞台袖からその様子を見ている湊は、釘を打つ手を止めそうになる。「ねぇ、湊。本当は琴葉のこと、好きでしょ?」「え……」言葉に詰まる湊を見て、結衣は苦笑した。「やっぱり……でもさぁ、あの2人を見てたら、危ないよ。このままじゃ透に持ってかれる」「そんなこと……」「あるの」結衣の声は強かった。「だって、私だって、琴葉が透と仲良くしてるの、面白くないもん」その言葉に隠された感情を、湊はまだ理解できなかった。体育館は満席だった。舞台の上で、琴葉と透は見事に息を合わせ、観客を惹き込む。最後のシーンで透が琴葉の手を取ると、歓声と拍手が一斉に沸き上がった。湊は袖で立ち尽くす。笑顔の琴葉を見ながら、心が静かに崩れていくのを感じた。打ち上げの帰り道、瞬が隣で言った。「湊、お前……結衣のこと、どう思ってる?」「え?」「あいつ、ずっとお前を見てるぞ」その言葉に湊は動揺し、答えを返せなかった。

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