第2話
4月下旬。授業にも慣れ始め、放課後の時間が少しずつ自分たちのものに戻りつつある頃。「湊、今日も残ってんの?」教室の扉を開けて瞬が入ってきた。スポーツパックを肩に担ぎ、額には練習帰りの汗が光っている。「まぁ……」と湊は曖昧に笑う。本当の理由は言えない。彼はわざと遅くまで残り、琴葉や結衣が部活を終えて戻ってくるのを待っていた。瞬はニヤリと笑う。「琴葉ちゃんと一緒に帰りたいだけだろ」「違うって」「違わねーよ。顔に出てる」そんなやりとりをしていると、廊下から笑い声が近づいてきた。吹奏楽部の練習を終えた琴葉と結衣だ。2人は並んで歩きながら、手に楽譜を抱えている。「湊、まだいたんだ」琴葉が驚いたように声をかける。「うん、ちょっと課題が残ってて」「真面目だなぁ。私なんか、部活で吹いてたら勉強する気なくなっちゃう」結衣が肩をすくめ、元気に笑う。そんな自然のやりとりに、湊の胸はほんのり温かく、そして少しだけ苦しかった。6月、文化祭の出し物を決める学級会。「演劇やろうよ」結衣の一言で意見がまとまった。彼女はクラスのムードメーカーであり、その発言には皆が素直に従った。問題は配役だった。「主役は……琴葉でいいんじゃない?」ある女子の声に、教室中が一気に盛り上がる。「え、私?無理だよ……」琴葉は戸惑うが、拍手と声援に押されてしまう。「相手役は透だよね」「絶対似合う」女子たちの声は止まらなかった。透は少し照れながらも笑みを浮かべる。「じゃあ、精一杯やらせてもらうよ」その瞬間、湊の胸は強く締め付けられた。隣で結衣が小さく呟いた。「……面白くない」その声は、湊にしか聞こえなかった。
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