第2話 インパクト〜いざ! 初バトル〜

MC Goalこと師匠とは、あれからも連絡を取り合ったままだ。なんでも、教えてあげるから師匠も呼ぶようにと言われている。


「師匠は、なんでHIPHOP辞めちゃったんですか。」

「それは、まだ時が来てからじゃないと教えられないな。」

「うーん、わかったよ。」

「そうだ、君が代わりにHIPHOPやってくれないか。」

「えー、俺にはできないよ。」

「でも、知識は確かに増えてるんだろ。たくさん曲も聴いているし。」

「まぁ、そうだけどさ。」



「それでさ、師匠がさ。ラップ初めてみろとか言ってきてさ。」

「へー、面白そうじゃん。やればいいじゃん」


友達の宇田が話に乗ってくる。


「いや、やる場所とかないし。」

「そういえば、1学年上の木村先輩が、昼休みに、MCバトル開いてるみたいだぞ。」

「木村先輩っていけてる先輩じゃん。俺には向いてないから。」

「いや、俺、中学の頃、部活同じだったから、声かけてみるよ。」

「そっか、お前中学の頃ラグビー部だったもんな。」


いや、意外と近くにMCバトル、あるもんなんだなって。おいおい、なんでやることになってんだよ。絶対に逃げてやるからな。


「おい、お前が松野か?」

「はい。」

「HIPHOP好きなのか?」

「まぁまぁ、好きな感じですね」

「1週間後MCバトルやるから、お前も来いよ。ギャラリーの女子も結構来るからな。」

「えっ、俺もやる感じですか?」

「人数足りないしな。まぁな。」


えっ、木村先輩って怖そうだから、断りきれなさそうだなぁ。黒歴史上等で出るしかないかな。



「ってことがあったんですよ。師匠。」

「いいじゃん。近くにラップに触れる場があって。俺の時はなくて、親元離れて、大学生になるまで苦労したんだから。」

「そうは言っても。他学年の女の子たちも見に来るんですよ。」

「たしかに、それはダサいところ見せられないな。よし、ラップ練習してみるか。」

「えーっ!」

「dis portionっていうアプリがあって、インターネットで、ビート流したりして、ラップの練習できたりするんだよ。お前も入れてみろよ。」

「わかりました。へーっネットで練習できるんですね。」

「まぁな。俺たちが若い頃はなかったけど。」


dis portionでビートを流して、バースを蹴ってみる。


「俺は何も持ってない高校生 わからなくなる将来の方向性 最近は少しだけなってるワクワク 高鳴りで心臓がバクバク 芸術は爆発」


少しずつ韻を踏んで、言いたいことをまとめていく。即興で言葉が生み出せるって楽しい。


「どうやったら、師匠みたいになれるんですかね?」

「結局、楽しんでやることだな。やればやるほど上手くなるから。残り1週間、練習に付き合うから。」

「師匠っていつも暇ですよね?仕事何やってるんですか?」

「ぎくっ。まぁ、謎多い男はモテるから、秘密だな。」

「ちぇーっ、ケチだな。」

「そういえば、MCネームってどうすればいいですかね?」

「お前、ライトって名前の割に、暗いから、そのまま下の名前からとってしまえばいいじゃん。英語でLightな。」

「どういう意味ですか?」

「暗いお前が、HIPHOPでみんなを明るく照らせるようにだよ。」

「いい感じですね。ありがとうございます、師匠。」



「よし、今日もMCバトル開催な。今日は、初めてのラッパー、Lightも登場だからな。」


フロアが少しだけ盛り上がる。

「一回戦 Light vs MC フォレスト 8小説3ターン レディーファイト」


ジャンケンは負けて、先攻。師匠みたいに、俺の人生をぶつけにいくぞ。


「乗りこなすビート、今の俺は何もしてないニート、あんたはなんでもできるエリート、その功績すらここでデリート、師匠から教わった弱さが変わる強さ だからぶち上げるこのフロア

教室の隅っこからなりにきた本日の主人公」


歓声が少しずつ上がってくる。これ、いけるかもしれねえ。


「お前が主人公?はるか遅いスピード!ただの陰キャラのくせに、調子乗ってステージに上がってきたお前 俺の方がバースがオシャレ 探せない答え 結局できるやつはなんでもできる お前は単なるフェイク」


今は相手のバースを聞くことにだけ集中する。

どう、アンサーを返すか頭を回転させる。


「あんたの意見も一理ある。でも、俺の人生ごと吐き出すリアル いつもはクラスで脇役 そんなやつがステージで輝き出す モブでもビッグになれる。目の前の壁 ひっくり返す。目の前に対して 真剣な目だ こいつに出会って 人生変えた。」


俺の人生をそのままぶつけていく。これが俺の生きた証だ。


「俺はこいつに出会って人生変えれたなんて死んでもはけねぇ 遊びの延長線上 これからお前に叩きつける挑戦状 ただそれでよかったけど、お前の目見てると俺も出したくなる本気

だから奪い取る勝利。」


「俺は背負ってる 宇田 仲間たちの気合い だからやり合うのはバチバチの試合 だからあんたの目を離さない この眼もリアルなメモリアルな思い出を残したい 俺は初心者 ある個人差 でも俺は俺なりでいいんだ。」


俺が俺なりでいいと認められるまで。


「お前、初心者の割になかなかやるな。でも俺の背中にも仲間がいるわ。相方の分 俺も音楽の上で愛を語る eye to eye語るのは、愛と愛 やるのは倍の倍 いつかは、二千円のエントリーするため 稼ぎたいバイト代」


「終了。先攻 Lightが勝ったと思うやつ! 」

割れんばかりの歓声があがる。

「後攻 MCフォレストが勝ったと思うやつ」

会場が静まり返る。


「勝者 Light」

「お前、なかなかやるな。」


勝利と共に、飲み干したポカリスウェットは、美酒の味がした。ただ、その瞬間に酔いしれていた。

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