第五章 綾の記憶

炎の中、綾がゆっくりと歩いてくる。

 足元に火が絡んでも、彼女のドレスは燃えなかった。

 「綾……」


 「ミサ、覚えてる? 中学の文化祭。二人で“snow drop”歌った時。」

 「うん。あれが初めて、誰かに届いた瞬間だった。」

 綾は笑った。「あの時、私、ほんとは間違えたの。でもあなたが合わせてくれた。あの瞬間の音だけは、まだ胸にあるの。」


 主が膝をついていた。

 「どうして……どうして歌える……? お前たちは“人間”だろう……!」


 美咲は泣きながら言った。

 「だからこそ歌えるの。悲しみも、希望も、全部、生きてる音だから。」


 綾が美咲の手を取り、ふたりの声が重なった。

 🎵『NEO UNIVERSE』のような、光を纏った旋律が、暗闇を裂いた。


 「ありがとう、美咲。私は……もう、大丈夫。」

 綾の身体が光に包まれる。

 その瞳には、確かな微笑みがあった。


 「行かないで……!」

 「行くよ。でも、あなたの中で歌い続ける。」


 光が弾け、綾は粒子となって空へ昇った。

 美咲の耳に、彼女の声が最後に残った。


 > “La vie en rose... 音は生きている。”

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