第三章 影の少女たち

館の奥へ進むたび、音は形を変えた。

 ピアノの音階が階段を登り降りし、足音と混ざって消える。

 美咲が振り返るたび、背後の壁の肖像画が、少しずつ違う表情をしていた。


 「綾……どこにいるの」


 その声に応えるように、遠くから少女の合唱が聞こえる。

 🎵『Pieces』を思わせる旋律。だが、ひとつひとつの声が涙を含んでいる。


 声の主たちは、この館に囚われた少女たちだった。

 時代も服も違う。けれど、皆同じ年頃、同じ瞳の色。


 「私たちは、“音”にされたの。」

 ひとりの少女が、美咲の前に姿を現した。

 白いワンピースに血のような赤いリボン。

 「歌いたいって願ったから、あの人に拾われたの。最初は幸福だった。けど……」


 彼女の声が震える。

 「歌は、命を奪うの。ひとつ音を出すたびに、心が削られる。」


 美咲の足元に、破れた譜面が散らばっていた。

 そこには“L’Arc〜en〜Ciel”の文字と、見慣れない五線譜。

 「これ、誰が書いたの?」

 少女は小さく微笑んだ。

 「館の主。彼は“音”そのもの。かつて人間だったけど、永遠を求めすぎて“旋律”に溶けたの。」


 影の奥で、ドラムが鳴る。

 🎵『Driver’s High』のような疾走感――だが、それは血の鼓動に似ていた。


 「逃げて、美咲。あなたの声は特別だから。」

 少女はそう言い残し、音に溶けて消えた。

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