第10話『ゲームに勝った?』

 始まってしまった悪魔のゲーム。

 果たして僕は、このゲームで生き延びられるのだろうか。


「では早速……愛してる!」

「あ、愛してる」

「それ、だいぶ際どいよ?」

「これぐらいは許してほしい」

「まあ良いけどね。ふふっ」


 紅愛さんは随分楽しそうだな。

 てか今の、普通にアウトでは?


「愛してる!」

「……愛してる」

「本当に?」

「何それ、そんなの良いの?」

「全然ありだよ。で、本当に私のこと愛してるの?」

「えっと……」


 まさかそんなルールがあったとは。

 本当に? と訊かれると、余計に言うのが恥ずかしいな。


「あ、愛してるよ」

「あひがとう。わたひもあひしてる! えへへ」


 紅愛さんは顔をニマニマさせながら返事した。これ完全にアウトだろ。


「次私の番だね。……心の底から愛してるよ、綾斗君」

「っ……!?」

 

 紅愛さんは僕の手を包み込むように握り「愛してるよ」と言ってきた。


「んんっ!」


 危ない危ない。

 ギリギリ、羞恥心を抑えることが出来た。

 今度は僕から仕掛けてみるか。


「も、もう一度言って」

「分かった! ……綾斗君、ずっと前から大好きだったよ!」


 紅愛さんはお日様みたいな笑みを浮かべながら言った。

 ……もうこれ完全に告白じゃないか!

 恥ずかしすぎて、鼓動が早鐘を打っている。

 落ち着け三田綾斗。

 これは告白じゃなくてただのゲームだ。本心で言っている訳ではない。


「私の番だね……ねえ綾斗君。一度で良いから私と……つ、付き合ってみない?」


 上目遣いで。

 しかも本心で言っているような空気を漂わせながら紅愛さんは仕掛けてきた。


「えっと……プシュー!」

 


 蒸気機関車の汽笛のように、僕の頭から蒸気が吹き出た。

 こんなの耐えれる訳ないだろ!

 流石に動揺を隠せなかったか。

 

「どうやら僕の負けみたいだね」

「今のはノーカンで良いよ」

「え、良いの?」

「うん。私が無理やり綾斗君を誘ったんだし、少しぐらいの動揺は許容しないとね」


 あれで少しの動揺なの?

 ゲームとして成り立っているのか疑ってしまう。


「じゃあ次は僕の番ということで」

「分かった!」


 紅愛さんの寛大な心のおかげで僕は脱落せずに済んだ。ならそれの恩返しとして、僕も全力でこのゲームに勝ちにいかないとな。


「うーん……」

「何言われるのかな~。ふふっ」


 紅愛さんを照れさすには、相当攻めたことをする必要がある。

 やっぱり言葉だけじゃなく、シチュエーションも大事になってくるか。


「紅愛さん。少し僕に近づいて」

「なになに? もしかしてエッチなことでもするの?」

「良いから近づいて」

「はいはーい」


 紅愛さんはニコニコしながら僕に近づいた。

 そして紅愛が前のめりになると、僕は口を紅愛さんの耳元まで持っていき……



『愛してるよ、紅愛』



 僕は吐息を交えながら、紅愛さんの耳元で愛を囁いた。

 もっと攻めるならボディタッチ系もあるのだが、それだと僕がお縄についていまう。

 それに、以前紅愛さんに耳元で囁かれたので、それの仕返しでもある。


「っ!? あわわ……」

 

 紅愛さんはどういう表情してるんだろう。

 僕は紅愛さんの表情を見るため顔を耳元から離したのだが……


『ボカンッ!』

「あ、綾斗君?」


 紅愛さんの表情を確認する前に、僕の羞恥心という名の爆弾が爆ぜた。

 そして僕は赤面させた顔を手で隠し、身を丸めるようにしてその場にしゃがんだ。


「大丈夫?」

「うん、全然大丈夫じゃない」

「そ、そうなんだ……」


 僕という人間は本当にバカで愚かだ。

 身の丈に合っていないことをした結果自爆し、ゲームに負けた。

 誰か! 僕を三途の川の向こう側に放り投げてくれ!


「僕の負けだね」

「負け?」

「慈悲をくれなくて良いよ紅愛さん。今回は完全に僕の負けだ」

「負け……あ、あーそのことか。そうだね! 綾斗君の負けだね!」

「紅愛さん? ほっぺたが赤いけど大丈夫?」

「!? こ、これはあれだよほら! えっと……」


 爆弾処理を済ませてから立ち上がると、紅愛さんは頬をほんのり赤くしていた。


「もしかして、店内が暑かった?」

「店内……う、うん! 凄い暑かった!」


 季節は秋なのだが、近年の環境変化によって今日はいつもより暑い。

 店内はエアコンを切っているので、それで身体が火照ったのかもしれない。


「本当に暑いなー。暑くて倒れそうだよー」


 火照った身体を冷ますように紅愛さんは手をパタパタさせた。

 僕的には、そこまで暑くないんだけどな。


「……そうだ! まだお会計してなかったよね?」

「そういえばそうだったね。今するよ」

「お、お願いします!」

「一つ280円だから二つ合わせて……今日の合計は560円になるね」

「分かった」

 

 合計金額を言うと、紅愛さんは千円札をキャッシュトレイに置いた。


「……嘘、もう電車来るじゃん! 綾斗君、パンってもう包み終わったよね?」

「うん。終わってるよ」

「なら私もう行くね!」


 そう言うと紅愛さんは包み終わったパンを手に持つ。


「行くって、まだお釣りが──」

「またね綾斗君!」


 お釣りを受け取っていないにもかかわらず、紅愛さんは急ぎ足でその場を去ろうとする。


「紅愛さん! お釣り受け取ってないよ!」

「それは綾斗君にあげる! じゃあね!」


 結局お釣りを受け取らず、紅愛さんは駆け足で駅に向かって行った。


「……どうしよう」


 静かな店内には、僕と柴三郎さん一枚が取り残されている。

 なんと言うか、さっきの行動は全然紅愛さんぽくない。偏見だけど、紅愛さんはお金を粗末に扱うタイプには見えない。


「……まあ、良いか」


 紅愛さんはお釣りを僕にくれると言っていた。

 なら紙面上、僕が悪魔のことにして、それの賞金にしよう。(※僕はしっかり、柴三郎さんをレジに入れました)

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