裸足の灰姑娘(シンデレラ) ~呪いに愛された月性~

南野うか

序幕 月と太陽

 古来より、太陽が月を輝かせるように、月性は陽性に愛される運命にあった。

 しかし、とある悲劇を境に、その運命は呪いへと変貌する。

 それでも月に選ばれた少年は、太陽に愛されるべく、呪われた足で歩き続ける。

 それがいつか、本物の愛に変わるまで。


◇ ◇ ◇


「むかーしむかし──

 月の国の皇子と、太陽の国の皇子がいました」


 ゆらめくのは、蝋燭の灯。母の声がふわりと鼓膜をくすぐる。


「月の皇子は雪のように白く、太陽の皇子は炎のように熱くて、いつも喧嘩ばかりしていました。


でもある日ふしぎと目が離せなくなって、お互いを“すき”になってしまったのです」


 頬を緩める母の横顔が灯に揺れた。

 李飛龍リー・フェイロンは母の膝に凭れながら、隣に座る幼馴染───黎逸景レイ・イージンをちらりと見る。


「ふたりは手を取り、国を歩き、笑いながら眠りにつきました。けれど、月の皇子の心臓に宿った呪いは、近づくほどに燃え上がり……


最後には、月の皇子が太陽の皇子の胸に刃を突き立ててしまいました!」


 頁をめくる音が、やけに大きく響いた。

 飛龍は小さく身をすくめる。


「なんて話しだ……こいつら、男同士なのに、けっこんしたのか?」


 ぽつりと呟いた逸景に、飛龍はぎょっとして振り返った。


「け、けっこんっ!? 二人は男の子だったの!」

「お前だって顔だけは女みたいだし、まあ……」

「なっ!?」


 逸景はわざとらしく肩をすくめ、得意げに顎を上げた。


「お前が大人しくするなら、嫁にしてやってもいいぞ」

「や、やめろっ!! 俺は男だ!!」


 飛龍は真っ赤になって叫んだ。

 逸景も負けじと睨み返し、とうとう二人は取っ組み合いになった。


 茉莉花の香りに包まれる部屋。三人を照らすのは柔らかい蝋燭の灯りだけ。

 母は呆れたように笑って、ふたりを引き離した。


「もう……本当に喧嘩ばかりね。

 ──ねえ、逸景。飛龍を守ってあげてね」


 逸景は少し照れて頷き、飛龍はこそばゆくて顔を背けた。

 ちょっと切ない夜の風。温かい薬湯の匂い。優しい母と、家族みたいな逸景。


 忘れかけていた、遠い日の記憶。

 蝋燭の火が消えるように、ふっとあの日の光景が消えてく。

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