大衆の被害者

@kawakokoko

1.1

志摩理央 19歳

僕は若くして執行猶予のつかない罪で裁かれた。

今日からは、ぼちぼち日記を書いていこうと思う、いつかこの憎しみが消えてしまうかもしれないからだ。

でも今日はすごく疲れた、くだらないことに時間をかけた、望めば刑務作業へ取り組めるらしいが、あれらは釈放される時に金が入ってくるってのに、自分には入ってこないもんだから面白く無い。

ただ働きなんて、2度としてやるか。

                  2月8日



死刑囚の中にも、本を書いたり講座を開いてかねもうけしている人も居るらしい、菅野が話していたことを思い出した、あいつもわがままな人間だ。

菅野はのうみそにしょう害を抱えている人間だ。

理性や良心が残っているように見えて、利己的だ。思慮が浅い人間なんだ。

わかりやすいところはいいやつだ、二つに折れるアイス棒を割ったとき、片方が少し大きくなってしまった。

その時は大きいアイスをくれたが、あの時の菅野の多動はよく覚えてる、きっと心の奥底では「こうした方が長い付き合いでは利益が出る」と考えながら僕に渡したのだろう。

結局は3年と経たずに関係はおしまいだ。結局あいつはそんな小さい自己犠牲を払っても報われない、そんな奴なんだ。少し、面白い。気味がいい話だ。


小説家か、小学校の授業で、短編を書く授業があったことを思い出した。ぼくはとても良いものを書いたつもりだったのだが、一切活字に触れていないクソガキどもには何も目立っては見えていなかったのだろう、自我も何も無い奴らだった、その時の友達には褒められたが、その中でちゃんと評価してくれていたのは浅野先生と西田くらいだ。小学の6年間も、独房暮らしのようで窮屈だった。


西田はほんとうに善人だった、親がちゃんとしていたのだろう、ぼくと仲のいい奴はみんな信頼していたし、ある意味カリスマ性があった、獣医を目指していたらしいが、その道に迎えているのだろうか。


小学四年生の時の5月、引っ越しをすると言ってくれた。

父が事故で亡くなり、家を売って栃木に引っ越すことになったと。


大人になったら海でバーベキューをしようとか、一緒にゴルフとかもしてみようとか、一日中ボウリング場に入り浸って、ドリンクバーのメロンソーダを全部飲んでやろうって色んな約束をしていたが、その計画は無くなってしまった。

西田とやることは何もかもが楽しかっただけあって、他よりもものを考えれるぼくには神様も面白く思ってないようで、試練を与えてるのでは無いかと思った。

実際はほんとうにそうだったのかもしれない。


西田はよく勉強をしていて、哲学の話をよくしていてくれた。他人の話を引用している時の言葉は拙くて、きいていられなかったが、西田自身の考えを喋ってくれている時は惹き込まれた。

人間は電気信号の集合で、僕たちはデータの集合だと述べていた。


西田はひとにあわせて振る舞いを変える。陽気なやつにはそれに合わせてたし、西田の家はインターネットを使わせてもらっていたらしく、そういうのが好きなやつにはインターネットの話をよくしていた。

でも、西田が西田の考えを述べる時はだいたいの場合僕にだけしか話さない。


「もしこの関係がプログラムされたことで、おれとおまえ、どっちかのシナリオに影響を与えるたのに必ぜん的なことだったら、もしそうだとしたらおまえはどう思う?」 そう言われたことがあった。西田はよく僕を脅そうとする言い方をする。その時はそんな話あるもんかと思って適当に答えたが、今思えばちゃんと向き合うべき内容だったのかもしれない。


僕は僕が電気集合のひとつであるとは思わないが、仮にそうだったとして、なぜそんな仕組みを取ろうとするのか、地球を媒介にして僕たちを操作して、残酷な運命や幸せな時間やらを同時に存在させる。

言われてみればこんな世界でよく頭を使える存在は人間くらいしか無くて、その人間はろん理的な思考を行い、他人に配りょができるものが大半だ。


では、その配りょができない奴は嫌われて当然だ。少なくとも自分はそう思う。でも、そんなこともできないのに皆に好かれてるのを見て憎く思っているのは自分だけなのか?などと考えている時に、ぼくはぼく以外が電気集合のひとつにしか思えなくなっていた。


そんなことを浅野先生にしたら、「人には幸せに生きる権利がある」なんて的外れなことを言われて、それから大人ですら適当なのか、と考えるのをやめた。

今思えば西田は核心をついていたのだろう。


西田は電気信号なんかじゃない、きっとこんな広い場所でおまえとぼくだけは数少ないプレイアブル・キャラクターのひとりだ。


西田は獣医になれているのかな、今頃大学生になっているのだろうか。


                  2月9日



昨日は菅野のことをバカにする予定が、ずっと西田のことについて書いていた。

菅野には中身がない、しょう害に甘えて生きているからだろう。野生的で、一番に憎むべき存在だ。

周りに配慮してもらって当然という考えが目に見えて目立っていて、こんなのを許してはならないと思いながらも、居場所がなかったもので、よく利用していた。

あいつは金にはがめつくないが、目立ちたがり屋で、人からの視線が気になるらしいよく自分の親のことを悪く言っていた。

親はきっと無条件に自分のことを愛してくれるものじゃないのか?と話すと「親からしたら子供はアクセサリーで、出来がわるいとほっぽりだすんだ。親がいないおまえにはわからないだろうよ」と言われた。

親がいても粗末なものは粗末なんだな、と思い気にはしなかったが、今思えば苛立ってきた。

気を紛らわす為に刑務作業をやらせてもらおうか悩んでいる。


自分には単純な労働は似合わないな。

菅野は自分が不幸である事に酔っていて、そのくせ賢くないから見ていて不快な奴だ。

気分が悪い、あいつのことを考えていると何時間あっても足りない。

もうあいつのことを考えているだけでのうみそまで汚染されている気分だ。

今日はやめる。

                  2月10日



2月14日

今日からは先に日付を書く事にした。

先に本題から入ると安定したものが出来ないと思ったからだ。字に書いてその通り三日坊主になりかけていた。

今日は所謂ヴァレンタインだ。小学2年生になってからは誰からもチョコレートをもらったことはない。

学校に行かせてもらった事には感謝しているが、祖父はだいたい、お年玉とローソクもらいくらいしか何かぼくにくれるものがない。

あんな頑なな人間の孫に自分が生まれたことが気が気でならない。


いや、嘘をついていた。

小学4年までは朝に西田の家に行くと西田の母親からこの日やハロウィンやらでおやつをもらっていた。


西田のお母さんは子供が好きなんだろう。引っ越すことが決まってからは西田の家を出る前、迎えに行ったみんなにハグをしていた。

自分は親がいなくて、そんなことをしてもらったことがなかったから、すごくあたたかかった。心がフワフワするような感覚に見舞われた。


不きん慎かもしれないが、西田の父が事故で亡くなったと聞いた時、自分と近くなったような気がして嬉しかった、ほんとうに僕たちは電気信号なんかじゃないと強く思った。

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