沈潜

しろたけいすけ

一話完結

血。それは最も身近で特別な体液だ。


この意見に異議を唱える方はもちろんいるだろう。だが、私の中ではこれは絶対的な結論なのだ。何を言われようと覆ることはない。

そもそも人は古来から血は殊に奇矯なものとして扱ってきた。かつて王族や貴族は血縁があるかどうかを非常に重要視した。宗教においては血は穢れとされ、忌避された。遠い昔、生娘の血には若返りと美の効果があると狂信した女王がいた。とある地域では、コウモリの血がてんかんに効くと今でも信じられている。

こういった話は枚挙にいとまがない。血は、人類の間でこんなにも特別視されているのだ。


…だから我が血族も、人間の血を食糧として選んだのかもしれない。

なんて思考を止めると、私は首筋に刺した歯をゆっくりと抜き、すっかり青白くなった女の体を離した。すると、がしゃん、という音とともに女はゴミ箱ごと地面に倒れ込んだ。驚いたネズミが爛々と目を光らせながら路地裏を這い回る。私はほうっと息を吐くと翼を広げ、星のない空へ飛び立った。

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沈潜 しろたけいすけ @shirota1k

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