第3話 誘い
封筒が届くたびに、私は少しずつ行動を変えるようになっていた。
「封筒に従えば間違わない」――今ではそれが当たり前の考えになっていた。
その日も、ポストにはいつもの茶色い油紙の封筒が入っていた。
封を開けると、紙にはこう書かれていた。
――「郵便局で、私に会ってはいけない」
最初は意味がよくわからなかった。
「私」とは誰のことなのか。
もう一度、紙を見つめた。
文字の形が、どこか自分の字に似ているような気がした。
「私」の書き方や、インクの濃さまで、自分が書いたものとよく似ていた。
気のせいだと思い直したが、胸の奥にわずかな違和感が残った。
数日後、買い物の帰りに郵便局の前を通った。
中をのぞくと、人はほとんどいなかった。ただそれだけのことだったが、少しだけ足が止まり、胸が冷えるような感覚がした。
夜、布団に入ってからも、あの一文が頭に浮かんだ。
――「郵便局で、私に会ってはいけない」
“私”とは誰のことだろう。未来の私か、過去の私か、それとも別の何かか。
考えれば考えるほど、答えは見えなかった。
翌日、私は郵便局へ行かなかった。
行かないと決めて、普段通り買い物を済ませ、家に戻った。
――「郵便局で、私に会ってはいけない」
声には出さず、心の中でその言葉を繰り返した。
不思議なことに、繰り返すたびに「もし行ったらどうなるのだろう」という思いが強くなっていく。
行かないと決めたはずなのに、心の奥で“確かめてみたい”という気持ちが消えなかった。
その日も郵便局へは行かなかった。
けれど、夜になってもあの言葉が頭から離れなかった。
“会ってはいけない”――それは、確かに何かを示していた。
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