第31話 対決

 なんとか歌詞は出来上がったが、郁哉は全く自信がなかった。すでに夜中に浜辺を歩く覚悟はできているくらいだ。


「じゃあ発表します!」


アキはカメラを見てピースサインをすると歌い始めた。


🎶真っ暗な世界に零れ落ちた黒い花びらを

見失わないように目を閉じよう


 これはアキが作った歌詞だが、よく考えたら意味がわからない。なぜ見失わないために目を閉じるのか謎だが、きっとアキは細かいことは気にしないタイプなんだろう。


 続いて蓮の作った歌詞が発表される番になった。


🎶雪が降る海辺で佇んでいる光に溶ける君を

抱きしめたいと思いながら手を伸ばせずに


 これはきっと啓一郎を思い浮かべながら作ったんだろうな、と思うとなんだか嫌になる。


 しかし啓一郎は昔から颯斗のことが好きだから蓮を好きになる事はないだろう。


 蓮に幸せになってほしいと思うより、どうしても自分の気持ちを優先してしまう。きっと颯斗ならそんなことはないんだろう。


 そんなことを思って少し落ち込みかけていたが、郁哉の歌詞が発表される番になった。


🎶降り出した雨の中金魚たちはため息をついて

迷子の帰り道に凍りついている


 なんとなく金魚が思い浮かんだのでこのような内容になったが、考えてみたら無茶苦茶だ。

まず金魚はため息なんかつくのだろうか。


「じゃあどれがよかったか投票してねー!」


アキがカメラに手を降る。


 蓮も笑いながらそれを見ていた。蓮はアキのことが嫌いなんだと思っていたが、そうでもなかったのかもしれない。




 結果、案の定最下位は郁哉だった。夜中の浜辺を1人で歩くのは恐ろしいが、アキと一緒にいなくてすむから逆にいいかもしれない。


「じゃあ郁哉は1人で歩くことね!ちゃんと撮影しながらね!」


 アキとコラボ配信をしながら歩くことになってしまった。



 外は静まり返っていて波の音がざわざわ響く。砂を踏みしめる音がどこかもの寂しく聞こえていた。


 頼りない月明かりが足元に影を作っている。普段うるさいアキは、静かにしておく方が不気味さが増して面白いと思っているのか何も言わなかった。


 しばらく歩いていると、ふと誰かの足音がした。まさかアキだろうか。


 恐る恐る振り返ると、そこにはスバルが立っていた。


「なんだ、また罰ゲームか」


 スバルが呆れたように吐息を漏らす。しかしスバルもなぜここにいるんだろう。彼も罰ゲームをすることになったんだろうか。


「お前、なんでアキと一緒にいるんだ?」


「色々あって」


めんどくさくて適当に答えておく。


「そうか。こっちはチーム戦だっていうのに碌な奴がいなくて困ってる」


とりあえず碌な奴がいないチームらしい。それなら蓮も苦労していそうだ。


「まあお互い頑張ろうな」


スバルは無表情で告げると去っていった。


 なぜ話しかけて来たのか分からない。蓮のことが嫌いだから、蓮についての情報を仕入れたかったんだろうか。


 あまり関わりたくはない。



 ペンションに戻ると、ロビーのソファにたまこというお団子ヘアの女性と、ナツという目の隠れた男性とタンクトップの男性が座っていた。


「蓮くんってかっこいいけど、なんか本心で話してない気がするんだ……。ちょっと寂しいな」


 たまこが悲しそうな声色になる。確かにそれは郁哉も感じることはあるが、たまこは蓮のことが好きなんだろうか。思わず耳をそばだててしまう。


「たまこ!気にするなよ!」


タンクトップがたまこを励ますようにわざと大声を出す。


「蓮は人によって態度を変えすぎなんだよ!アヤちゃんにだけ優しいもんな!」


(え……蓮ってアヤちゃんって人が好きなのか……?)


新しく登場した名前につい体がこわばった。


ナツはタンクトップに同調するように頷く。


「蓮は見る目がないから、アヤちゃんみたいな一見か弱そうな子にばかり優しいんだよ。たまこちゃんの方がずっと頑張ってるのにな」


たまこは困ったような顔になった。


「なんだかチームにいるの辛くなっちゃった。ほら、さっきも蓮くん、アキって人に賛成して私を仲間外れにしたでしょ?」


「確かに!たまこ、もうこっちのチーム来れば?」


タンクトップが大きく頷き、ナツも


「そうだね」


と言う。


「でも、蓮くんにそんなつもりがないなら、気にさせちゃうと悪いし……。あ、蓮くんはまだいいんだ。スバルさんとツキちゃんが特に冷たくて」


ツキちゃんという人のことはよく分からないが、スバルは確かにみんなに冷たそうだ。


「そうだ!明日蓮くんに告白することにする!それでだめだったらそっちのチーム行くね!」


「いいじゃん!応援してるから頑張れよ!」


タンクトップがまたしても大声で言った。


(え……告白って……)


なんだか心臓が縮み上がったような気持ちになった。


その時。


「郁哉!さぼってないで早く!」


階段を駆け降りてきたアキの声に、たまこたちが一斉にこちらを見る。


その視線から逃れるように、郁哉はそそくさと部屋へ向かった。

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