(2)マイクロビキニの美少女

 歳の頃は二十歳前後。身長は160センチ弱。細身だが胸はあってスレンダーながらも抜群のプロポーション。艶のある栗色の長い髪を両耳の上からツィンテールに垂らし、美しく整った顔には清楚なメイクまできっちりと施していた。構える剣がまるでイメージとは不釣り合い。敵はそんな可憐な美少女だった。

 更に彼女は露出の激しいマイクロビキニにビーチサンダル履きという、奇襲を仕掛ける刺客の姿にはほど遠いユニフォーム? 姿だった。全裸の上に、トップスとボトムスが、申し訳程度に三角形の花柄模様のパーツ三つで局所を隠しているだけ。ルイに腹を蹴り飛ばされて地面を滑ったせいかトップス・ブラの右肩ヒモがちぎれかかり片乳房がこぼれそうになっていた。そんな水着姿だったので、激しく呼吸をしている腹が、ルイのトゥキックを喰らい、みるみると鬱血していく様子まで看て取れる。

 

「司令! 大丈夫ですか?」

 

 一人の兵士が地面に尻餅をついているレアードの横に駆けつけた。他の二人はビキニ姿で剣を構える美少女に銃口を向けた。

 

「俺は大丈夫だ! ルイがやられた、すぐに手当を」

「了解」

「きゃぁぁぁぁぁぁ~~~」

 

 その兵士がルイを抱きかかえるのと、敵の少女が叫ぶのは同時だった。

 少女は絶叫し、目を閉じたまま闇雲に剣を振り廻して突進して来たのだ。

 兵士たちは一斉射撃開始。

 

 ビシュビシュ! ビシュッビシュッ! ビシュ!

「嫌ぁぁぁぁ、やめて~~~」

 

 ビームガンから光弾が次々と撃ち出された。

 少女は悲鳴を上げながら腰が引けた前屈みの体勢で、素人剣法まる出しの剣をブルンブルン振り回して迫って来る。

 こんなへっぴり腰の幼気(いたいけ)な少女が相手では士気がにぶるのか? 兵士の放ったビーム弾はただの一発も命中しない。

 猛突進してきた彼女は二人の兵士めがけ、泣きじゃくりわめき散らしながら滅茶苦茶に剣を振りまわした。

 ルイを介抱しようとしていた兵士もガンを構えて応戦する。

 騒ぎを聞きつけて、近くを偵察中だった他の部隊の兵士達も、続々と集まって来た。

 彼女は自らの行為に恐怖しているのか目も開けられず、必死の形相でわめき散らす。それなのにビーム弾を全てかわし、滅茶苦茶に振り回す剣は、どういうわけか的確に連邦軍の兵士たちを斬り刻んでいった。

 

「や~~ん、怖いよ~~」

 ガシュッ!

「ぐぁぁぁ!!」

 

「やめてーイヤイヤイヤァァァァァ」

 ドガッ!

「ぎゃぁぁぁぁ!」

 

「助けてぇぇぇ~こんなのイヤぁぁ」

 ビシュッ!

「ギエェェ~」

 

「ばかもの! 何をしている、早く仕留めろ!」

 

 レアードは必死の形相で兵士たちにハッパをかける。

 兵士達は至近距離でビーム弾を乱発するがなぜか彼女には当たらない。

 見た目はまるで、か弱い美少女が重い剣に振り回され右往左往している風にしか見えないのだが。

 彼女は瞬く間に十人ほどの兵士を斬殺しレアードの目の前に迫った。

 

「き、き、きさまぁぁぁ!」

 

 すっとんきょうな声を張り上げてビームガンを構え、目の前の少女に怒濤のごとく光弾を浴びせたが、彼女は素早い身のこなしで全て避けてしまった。しかも信じられない事に、彼女は光弾を避けながらも、恐怖におののくような表情で眉間にきつく皺を寄せ、目を閉じたまま歯を食いしばっていたのだ。

 レアードはガンを捨てレーザー・ソードを構えて立ち上がった。青白い光りの切っ先が空を切り彼女の脇腹を斬りつけようとした途端、

 

 ガッキィィ~~ン!

 

 彼女はレアードの剣をいとも簡単に弾き返した。レアードは弾かれた勢いで再び尻餅をついてしまったが、地面に座り込んだまますぐに剣を構え直した。すると彼女はどういうわけか剣を降ろし、ゆっくりと目を開いた。

 

 眉間に大きな皺を寄せて睨みつけるレアードに、しかし少女は何を思ったのか? それは慈愛に満ちた表情とでもいうべきか、そんな優しく暖かい眼差しを向けたのだ。

 純粋かつ真の優しさを湛えた魅力あふれる微笑。その神々しいとさえ思える異様な美しさにレアードのアドレナリンは一瞬にして消え去り、心ならずも安らいだ気分が沸き起こってくる。美しい聖母にも似た少女の可憐な瞳はレアードを魅了し、視線を捕らえて離す事を許さない。

 

 たちまち闘争心を奪われ、半ば無意識に剣を降ろしてしまった。すると少女は両膝をゆっくりと地について、尻餅をついたレアードの前に正座した。呆然と見つめるレアードに、少女は愛狂おしい小顔をそっと近づけると、あどけないドングリ眼を大きく見開いて囁いたのだ。

 

「ねぇ、隊長さん……オネガイがあるの……」

 

 鳥のさえずりにも似た心地よいソプラノが鼓膜をくすぐり、春風にも似た暖かい吐息が頬を撫でる。今まであれだけ大暴れしていたのに汗臭さなどこれっぽっちも無い。爽やかで甘い少女の匂いがレアードを包み、辺りは一瞬にして安らいだオーラに包まれたのだ。

 

「な、何がお願いだ? お、俺は、騙されんぞ!」

 

 はっとしてレアードは再び険しい面持ちで彼女を睨みつけた。それでも、透き通る様な色白の頬をわずかに紅潮させてはにかむように見つめている彼女の、その魅惑的な表情に見惚れて息を飲んでしまう。それだけじゃない、彼女の甘い香りに翻弄されたのか? 可愛い水着姿の美少女が、肩を震わせ、腹を収縮し、全身を揺さぶって呼吸している姿に、えも言われぬエロスを感じ、呆然と見入ってしまっていた。

 

 勝ち誇ったようでもなく、女をアピールするようないやらしさもなく、彼女はまるで恋人を見つめる時の様に、キラキラした純真無垢な優しい笑顔を向けていた。

 こんなに魅力的な女性には出会った事が無い……そう思い込ませてしまうほど、目の前の少女は、この世のものとは思えない程に美しかった。

 少女ははにかむように愛らしい笑顔でかすかに笑うと、男心をキュンと締め付けるような、なんとも言えぬ魅惑的な眼差しを向けて囁いた。

 

「だって、あなたがいなければ……この部隊は撤退するしかないんでしょ? だから、ねっ! お願いだから、死んで……」

 

 完全にのぼせ上がったレアードの脳は、言葉の意味を即座に理解することが出来ない。彼女は、ダダをこねる我がままな幼女のように、可愛らしい仕草で笑みを振りまく。


 慈愛に満ちた女神の瞳はそのままに、彼女は大きく剣を振りかざした。

 ようやく事態を認識したレアードの脳裏に恐怖の旋律が走る。

 レアードを悲しげに見つめたまま彼女の剣が振り下ろされる……、

 

「あぐっ!?」

 

 彼女は呻き声を発し、両手で剣を振り上げたまま、それ以上動くことはなかった。

 レアードは青ざめた顔で彼女を凝視した。

 驚愕し恐れおののき、そして力なく悲鳴を上げた彼女は、その女神のような笑顔を一変! 邪悪な修羅の如くに、醜く歪めていた。

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