娯楽が大好きな神界を追放された神[改稿版]

怠けみかん

神のなす事。即ち遊び。

第1話「怠ける神さん」

私は神だ…追放されちゃったけど


 追放された理由は簡単。甘くて炭酸の飲み物としょっぱくてパリパリのスナック菓子のせい。

 それと面白い映画をベッドの上でぐーたら楽しんでいたら、最高神に追い出されちゃった。


 …意味がわかんないよね、神の中にはニートの神だとかぐーたらの神だとか、もっとふざけた奴らがいるっていうのに。


 な~んでよりにもよって私を追放したのか、ただただぐーたらしてただけなのにね。


 それも!追放された先が典型的な異世界。要するに娯楽が極端に少ないのだ。


 ついでに言っておくと、私は能力の半分以上を最高神によって封印されている。

 体感的に多分八〜九割は封印されてそう。使える能力があまりにも少ない。


 …もちろん娯楽系統の能力も。最高神ぶん殴りに行こうかな。


 ひとまず、私は森を適当に散策している。地理把握系統は粗方というか思いつく限りすべての能力が封じられているからここら一帯がどうなっているのかを把握するためである。


 そして3時間ほど彷徨った結果、わかったことがある。


―――私は迷子になっちゃったらしい。


「う〜ん、どうしよっかな〜」

 迷子から脱出する能力…は封印されてるでしょ…。魔術…は極力使いたくないし〜、魔法…いや駄目だ使用する魔力がこの世界の魔力と違う。


 そんな事を考えていると、遠くから爆発音が聞こえてきた。

「爆発…?」


 少しジャンプすると、黒い煙が上がっている場所がある。

 少し行ってみるか。


「座標指定は…しなくていいか。目測で…『瞬間移動』」


「おっ、移動できた」

 この能力は封印されていないみたい。

これすらも使えなかったら本気で最高神を潰そうかと考えていたところだ。


「それにしても…これは酷いな」

 もとは村があったのだろうが、その全ての建物が燃えている。焦げた木や焼ける肉の匂いが、鼻を強く刺激してくる。

 人々の悲鳴が絶え間なく聞こえ、いくつもの火の柱が登っている。


「見て見ぬふりもできるけど、できるだけ人は助けたいよね」

 それにもし助けたらこの世界で神として信仰されるかもだし…とりあえず『状況把握』の能力をっと。


 『状況把握』の能力は無事作動してくれた。

 作動したは良いものの、把握した状況があまりにも…なんというか…うん。

 大人げないものだった。


 魔王の分身が直々に魔王軍を率いて、この村に生まれた勇者の称号を持つ赤子を殺しに来た…だなんて、ゲームみたいに成長を待ったりはしないものなんだね。


「現実は残酷だね〜」


 村の周りを見渡すと、黒い甲冑と紫の刺繍が入ったローブに身を包んだ魔族が目に入った。

「あれが魔王かな?」


 部下の魔族らしき人物と会話しているようだ。盗み聞きしてみよう。

『隠密』『潜伏』『隠蔽』…えぇ、まさか隠密以外封印されてる?

 酷いねこれ、まぁ仕方ない。

 魔王の分身に近づいてみよう。


 ふむ、似合ってない。

 魔王の格好があまりにも似合わない。なんというか、何がおかしいと言われてもうまく言葉に表せられないような…致命的な違和感があるような気がするようなそうでもないような。


 まぁ、装備自体は一級品のようだけど。

 甲冑もローブも剣も全部がアーティファクト。生命体が創り出せる最高級品のようだ。


 魔王本人の見た目は完全にただの気のいいおっちゃんに見える…いや装備は凄く立派なんだよ、どうしてもこう…ね。


 その直後私は足元から音を出してしまった。

 枝を踏んじゃった。

『防音』の能力も使うべきだったかな?いや駄目だ『防音』は封じられてる。


「誰だ!」


 魔王の部下に気づかれちゃったみたい。

いっそのこと村人以外を丸ごと消し飛ばしたほうがいいかな…?

 隠密のおかげで魔王には気づかれてないようだ、今のうちから逃げられるかな…?

「そこに誰かいるのか?」


 あの部下がわざわざ大声を出したせいで気づかれたようだ。

 そもそもここまぁまぁ魔王のいるところから離れてるから部下の耳が異常に良かっただけかな?


「はっ!侵入者の可能性が高いです!すぐに排除いたしますのでご安心を!」


 これは出て行くべきかなぁ、攻撃仕掛けられても面倒だしね。 


「そこにいるのは誰だ〜?もし道に迷ってんなら教えてやるぞ!」

「魔王様!ですから侵入者の可能性が…」


…道聞きに行こうか。


「あの〜娯楽の多い町ってどっちですかね?」

「こりゃ可愛いお嬢さんだ、娯楽の多い町か…それならここを真っすぐ行って途中の分かれ道を右に、そうすると馬車の通っている道があるからその道をまっすぐ行くといいぞ」

「ありがとうございます!」


 まさか魔王に道を尋ねることができるとは思ってなかった。魔王は見た目だけでなく中身も気のいいおっちゃんだったようだ。


「すまんな、俺が直々に案内をすることができれば良かったが…今この村を滅ぼすのに忙しくてな」

「いや〜それでも迷ってた身からすると道を教えてくれるだけでも有り難いですよ」

「そう言ってもらえると助かる」

「魔王様…またそんな事を…」

「それではありがとうございました!」

「おう!困った時はお互い様だ!」


 これで拠点も娯楽も構えることができそうだ…娯楽系の能力の6、7割を封じられたからな。最高神を潰したくなる。すごく、とても、潰したくなる…


「まぁでも」


 …この村の住人は全員助けることもできたし、良しとするか。

 村人は全員私の『空間』能力で創り出した亜空間に避難(亜空間に強制ぶち込み)してもらったからね。死んだ村人は『蘇生』もしたし、完璧!

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