第13話『さすが委員長、親切で優しいなぁ』

「はいこれ」

「ありがとうセリィナ」


 セリィナは、俺が席に座ったと同時に書類を持ってきてくれた。

 しかし俺は目を疑っている。


「な、何この紙」

「選択授業の記入と、それに伴う意志表明というか志望動機だよ。そして書かれている通り、それらがない場合は授業内容についてを書くの」


 なんということでしょう。

 さすがに授業内容を聞いていたら書けたが、何も聞いていないというか憶えていない状況で書くことはできない。

 じゃあ前の意志表明だか志望動機だかは、大した理由もないから書くのも難しいな。


 さて、この空白だらけの紙を埋めるのを今日中に終わらせないといけないって……?


 ネモーネに相談しながら書いたらいいかっと思っても、まだ戻ってきていない。


「どこかわからないことがあったら、ボクが手伝うよ」

「いいの?」

「もちろん。ボクは学級委員長だからね。クラスメイトが困っていたら手伝うよ。書いている途中に心変わりしてくれるかもしれないし」

「さすが委員長、助かるよ」


 委員長っぽいなっと思っていたら、本当に委員長だった。

 ちょっとツッコミを入れたい邪な心があるのは置いておいて、心優しい委員長セリィナを頼ることにしよう。

 ツッコミを入れて、逆に心変わりされたら大変だし。


「じゃあ一番最初は思った通りに書いて。次はどっちがいい?」

「うーん……志望動機がいいのかな」

「空白を埋めるほどの内容なんて、正直ないのはみんな一緒だよ」

「そうなの?」

「ボクは全然余裕だけど、みんな工夫して埋めているの。要は、結論は決まっているんだから授業内容を混ぜながら志望動機を書く感じ」

「ほうほう」


 やっべ、教えてもらっている立場で別のことを考えてしまう。


 心優しい委員長が、勉強ができない惨めな俺にいろいろと教えてもらうシチュエーション――憧れだった!

 ノートとかを覗き込むときに、今のセリィナみたいに髪を耳にかけるようにかき上げて。シャンプーの匂いが鼻に直接入ってくる。

 そして無意識に目線を近づけてきているからこそ、顔も近くなって俺の心臓がドキドキドキドキと鼓動が早くなっていく。


 しかもさっきは直視できなかったけど、こうして顔を直接見ることができる状況で初めてセリィナのかわいい顔を拝むことができる。

 冗談じゃなく、ちゃんとかわいい。

 本当、ゲームの中のキャラクターはみんなビジュアルがいいな。


「ねえ、ちゃんと聞いてる?」

「え、あ、うん。でも授業内容が自信なくて」

「まあ課題を提出期限ギリギリまで忘れているぐらいだもんね。大丈夫、最後まで付き合ってあげるから」

「ありがとうセリィナ委員長。いや天使様。哀れな低能に慈悲と恵をくださいませ」

「ふざけてないで、続き」

「はい」


 とりあえず名前と一番上を記入。

 紙に目線を落としながら、筆を持つ。


「さすがに内容そのままはダメだから――『妨害技術の習得による連携の強化』を踏まえて内容を書いていきたいね」

「おぉ、俺の発言と矛盾せずいい感じになりそう」


 と、いう感じに内容を考えてもらってそのまま終わらせることができた。

 その間まさかの、休み時間の長さに気が付いてしまった。


 元々住んでいた世界を基準に5分だろうと考えていたけど、移動が多いからか各休み時間の長さが違うようだ。

 通常が15分、2時間目が30分、昼休み時間が2時間――という感じに。そして、今は残り5分。


「本当に助かった。ありがとうセリィナ」

「困ったときは委員長にお任せちょうだい。いつでも助けるから」

「これからは頼りにさせてもらうよ」

「選択授業の件は残念だったけど、まあ仕方ないわ。あ、そうだっ」

「ん?」

「もしよかったら、授業外で習った内容を伝えるのはどうかな」

「それはたしかに名案だ。じゃあ、俺が習った内容も伝える感じで? 自信はないけど」

「いいね、じゃあ放課後でいいかな」

「うん。それで」


 と、華麗なる流れに乗ってみたけど、本当に自信がないぞ。


 まあでもサラッと乗ったのには理由がある。

 な・ぜ・な・ら! 今この瞬間が憧れだったというだけでなく、女子と放課後の時間を過ごしてみたいという願望を叶えられるためだ!

 欲望にどん欲だと言われても、『女子と放課後に一緒の時間を共有する』という憧れは捨てられない!


「でも今日の放課後は用事があるからごめんね」

「時間に余裕ができたらでいいよ」

「正確には今日の方からでもいいんだけど、たぶんアルアの方が大変そうかなって」

「ん? 特に用事はないけど?」


 も、もしかして……別の課題が出されているということか?!

 転生する前の記憶はないわけだし、その可能性は大いにある。

 だって今の授業を選択する書類でさえ、セリィナから言われなければ提出できなかったわけだし。

 な、なんだ……なんだというんだ……。


 こういうときこそ、素直に聞いてしまう方がいいだろう。


「何か課題が他にもあったっけ?」

「いや、課題は他にないよ」

「じゃあ委員会の決め事とか?」

「いやー、そういうことでもないかな」

「じゃあ何? 教えてよ。評価に響くことなら助けてよセリィナ委員長」

「うぐっ――そう言われると心が」


 心臓ら辺をわし掴んで苦しそうに悶えている姿を披露するセリィナだが、隠し事をされているとしか思えない。

 何か言えない事情でもあるのかわからないが……あれか? サプライズ的な?

 でも誕生日イベントはまだまだ先だし――わからん。


「あ、そろそろ時間だ。じゃあ、また後で」

「う、うん。書類の件、ありがと」

「いいよいいよ」


 と、自席の方へ戻っていくセリィナの背中を見送る。


「楽しそうだったねアルア」

「こっちとしては疑問が残ってモヤモヤしてるけどな」

「書類って言っていたけど、もしかして選択授業の?」

「そうそう。ネモーネは何にしたんだ?」

「僕は妨害の方だよ」

「だよな。俺も」


 うーん……モヤモヤする。

 まあでもいいか。緊急を有する内容なら面倒見のいい委員長は教えてくれていたはずだろうし。

 悶えていたような苦しんでいたような様子だけは気になるけど、まあまあまあ。


 いろんな出会いがあって、今日という日が長く感じるな。

 でも学生してるって感じで楽しいからいいか。

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