第37話 まさかの事実
<sideジョバンニ>
「これならお出かけになられても大丈夫ですね」
「わぁ! よかった」
無邪気に喜ぶトモキさまとは対照的に団長は少しがっかりなさっているようだ。
「これでクリスさんのお父さんと国王さまにご挨拶できますね」
「そうだな」
トモキさまには笑顔を見せているが、私にはわかっている。
本当はトモキさまを紹介するのが気が進まないのだ。
それは反対されるからだとかそういうことでは決してない。
陛下も公爵さまも大喜びになるのは間違いない。
なんせ、我が国の救世主となるべきお方なのだから。
トモキさまがこのビスカリア王国に現れてから、隣国からの侵入はほとんど見なくなり、団長と正式に交わりを交わしてからは平穏そのもの。
そう。
トモキさまがこの世界にいらっしゃるだけで、我が国は安泰なのだ。
だからこそ、陛下と公爵さまが反対などするはずもない。
団長の気が進まないのは、トモキさまが可愛すぎるからだ。
陛下と公爵さまがトモキさまの可愛さをお知りになるのがいやで仕方がないのだ。
血筋なのか、陛下も公爵さまもかなり優れた容貌をなさっているが、トモキさまが心変わりすることは到底あり得ない。けれど、トモキさまにとって陛下と公爵さまは愛しい伴侶のご身内。
きっと呼び出しを受ければ断ることはなさらないだろう。
そうなって今まで独占していた二人の時間が奪われることを危惧しているのだ。
その点に関しては私も気持ちはわかる。
トモキさまが陛下と公爵さまにご挨拶に行かれるときは、タツオミも一緒に伺うはずだ。
なんせタツオミも異世界からこちらにやってきた身。
ある意味、タツオミも救世主だと言える。
だからタツオミもご挨拶をしなければいけないが、タツオミのあの身のこなし。
そして、料理も上手だと知られたら確実に騎士団に推薦されてしまうだろう。
以前、団長からその話があった時は結局やんわりとお断りをいれ、今は私の補佐として事務仕事を手伝っていただいている。
そのほうがずっと一緒にいられて何よりも仕事も捗るのだ。
けれど、陛下直々の推薦なら断ることもできない。
その可能性を考えるだけで、タツオミがご挨拶に行くのが気が重くて仕方がない。
「陛下との御拝謁は明日でよろしゅうございますか?」
「そうだな。そうしてくれ」
「承知しました」
マイルズが早馬を出しに行った。
もう変更もできない。
「タツオミ、明日そなたも一緒に登城するからこの前仕立てておいた正装を着用してくれ」
「わかりました」
「それからジョバンニ。わかっていると思うがお前も一緒だぞ」
「えっ? 私も、でございますか?」
「当然だろう。お前とタツオミは実質的に
「「えっ?」」
団長の言葉にタツオミとトモキさまが揃って驚きの声をあげる。
何かおかしな話でもあっただろうか?
<side龍臣>
智己の体調がようやく回復し、明日この国の王の元に挨拶に行くことになった。
そのことは以前からクリスさんに言われていたから覚悟もできているが、ジョバンニが時折浮かない顔をしているのが気になっている。
私が挨拶に行くと問題でもあるのだろうか?
気になることは聞いてみるに限る。
後で二人になった時に聞いてみるとするか。
そんなことを考えていると、クリスさんの口から驚きの言葉が飛び出した。
「お前とタツオミは実質的に
ジョバンニが……王族?
嘘だろう?
私はそんな相手に出会った初日に手を出してしまったというのか……
まさか、陛下の前でそのことについて断罪され、ジョバンニと引き裂かれたりしないだろうな?
「あの、何か?」
あまりの驚きに声をあげてしまったものだから、ジョバンニが不思議そうに尋ねてくる。
「あ、いえ。あの、ジョバンニ……あなたは王族だったのですか?」
「えっ、はい。お話ししたことはなかったでしょうか? 実はそうなのですよ。と言っても、現国王さまでいらっしゃるアンドレアさまからはかなりの遠戚になるのですが一応王族として教育は受けているのです。申し訳ありません。もうてっきりお話ししているものかと……」
「あ、いえ。別に謝ることではありませんよ。私が勝手に驚いただけで……。ならば、クリスさんともご親戚というわけなんですね」
「そうなんです。ですが、団長は陛下の甥にあたるお方ですから、同じ親戚といっても身分は全く違いますよ」
そういって笑顔を見せてくれるけれど、それでも王族は王族。
自分のしでかしたことが少し不安になる。
本来ならば、陛下に結婚のお許しを頂いてから契りを交わさなくてはならなかったのではないか……
不安で仕方がないが、私にはジョバンニと離れる選択肢はない。
陛下に認めていただけるように誠心誠意尽くすのみだ。
クリスさんと智己の部屋を出てジョバンニと二人で客間に戻る。
部屋に入ってすぐに、私はジョバンニに話がしたいと持ちかけた。
一瞬ジョバンニの表情が曇ったような気がしたが、気のせいだろうか?
気になりつつもまずは話をしておかなければ。
「タツオミ、どうなさったのですか?」
「ジョバンニ……私の話をよく聞いてください」
真剣な表情でジョバンニの綺麗な瞳を見つめると、ジョバンニはゆっくりと頷いてくれた。
「私は陛下にどれだけ反対されようとも、ジョバンニと別れるつもりはありません」
「えっ?」
「ジョバンニと結婚するまでの順番が間違っていたことは誠心誠意詫びるつもりです。ですが、それはジョバンニとの交わりを後悔しているわけではありません。たとえ、陛下もクリスさんのお父上にもジョバンニとの結婚を認められなくとも、私はジョバンニ以外を伴侶にするつもりもありませんし、ジョバンニが他の誰かの伴侶にさせるつもりもありません。それだけはわかっていてほしいんです」
「タツオミ……」
「ジョバンニ……わかってくれますか?」
「もちろんです。ちゃんとわかっていますよ」
満面の笑みでそう返してくれて、私はただただ嬉しさが止まらなかった。
<sideジョバンニ>
私が王族だと知ってタツオミの顔が険しくなったのを見逃さなかった。
王族と言っても私の場合は本当に大したことではないのだが、気にしてしまったのかもしれない。
現国王の甥である団長とは全く身分も違うと話したけれど、少し考えているような表情が気になる。部屋に戻るとすぐに話がしたいと言われてしまった。
王族というものが煩わしく思えて、嫌になってしまったのか……
もしタツオミが気にするのなら、私はいつでも王族から抜けてもいい。
そもそも王族というよりは、今は騎士団の副団長として任務を果たしているほうが多いのだ。いつでも王族の地位など捨てられる。
真剣な表情のタツオミに緊張しながら、ソファーに腰を下ろす。
「私は陛下にどれだけ反対されようとも、ジョバンニと別れるつもりはありません」
えっ? 陛下に、反対……?
タツオミは一体なんの話をしているのだろう?
戸惑っている間にもタツオミはどんどん話をしていく。
なぜそんな話をし出したのかはわからなかったけれど、タツオミが私を決して離さないと言ってくれたことだけはよくわかった。
「ジョバンニ……わかってくれますか?」
もちろん、わかりました。
タツオミの思いは全て私の心に届きましたよ。
その思いを込めてタツオミに返事を返すと、タツオミは嬉しそうに私を抱きしめてくれた。
「あの……タツオミ。タツオミが私に強い思いを伝えてくださったのは嬉しいのですが……どうしてそのようなことを突然お話しくださったのですか?」
「……王族であるジョバンニに無体なことを働いたと陛下に断罪されて、ジョバンニと離れ離れにされるのではと心配になりまして……」
「えっ? 陛下が……断罪? タツオミを?」
「ええ。それでも、ジョバンニと離れる気は一切ないと伝えておきたかったのです」
「ふふっ……あははっ……」
タツオミの勘違いがあまりにも可愛くて声を上げて笑ってしまった。
「ジョバンニ? どうしたんですか?」
「タツオミは陛下が私たちの結婚を認めないと仰ると思ったのですね?」
「ええ。私は王族でもなんでもないただの一般人ですから……」
そうか。
だからそんな勘違いを……
「いいですか? よく聞いてくださいね。異世界から来たタツオミは私よりも、そしてある意味陛下よりも立場は上ですよ」
「えっ? 陛下よりも、上……? それは……どういう、ことですか?」
そう尋ねられて、私はこのビスカリア王国に伝わる話をタツオミに話した。
「――というわけで、異世界から来られた方は救世主として王家で大切に保護するというのが決まりになっているのですよ。ですから、トモキさまもタツオミもこの国にとって大切な人物なのです。その方が私を見初めてくださったのですから、陛下といえども反対など起こりうるはずがありません。というよりむしろ私を娶ってくださって御喜びになると思いますよ。私は生涯誰とも結婚する気などありませんでしたから……。タツオミだけです。そんな私のことを愛してくださったのは……」
タツオミが茫然とした表情で私を見る。
「納得していただけましたか?」
「ええ。私が救世主としての働きができるかはわかりませんが、ジョバンニを生涯愛し続けることは誓えます。陛下にもそれをお伝えしても構いませんか?」
「嬉しいです。でも少し、恥ずかしいですね。結婚になど興味ないと散々話しておりましたので……」
「ジョバンニがそんなことを? でも、よかったです。私と出会う前に愛する者に出会わなくて……」
「私もです。タツオミが私に会いにここまで来てくださってよかったです」
タツオミの瞳に欲情の色が見える。
私を欲してくれているのがありありとわかって嬉しい。
「私の中にタツオミの愛を注いでください……」
「くっ!! そんなに煽らないでください。本当に抑えられなくなりますから……」
「いいです。いっぱい愛してください……」
タツオミは私の言葉に反応するように、さっと私を抱き上げそのまま寝室へ連れて行った。
普段の紳士的なタツオミから野生的なタツオミに変わるこの瞬間がゾクゾクする。
噛み付くような口付けをされたのを合図に、私たちはそのまま何度も何度も蜜を飛ばし愛し合った。
<sideクリス>
「トモキ、そろそろ出かける準備をしようか」
「はーい。なんだかドキドキします」
「心配しないでいい。私がずっと隣にいるし、陛下も父上も決してトモキを怖がらせたりしないからな」
「はい。クリスさんが一緒だと安心します」
そう言って可愛らしい笑顔を見せるトモキを見て、私の心は複雑だ。
陛下も父上もきっとトモキを一瞬で気に入るだろう。
決して私に無断で連れ回すことはしないように約束させないとな。
今日の拝謁のために用意していた正装に着替えさせる。
「ああ、トモキ。よく似合っている」
トモキが私の伴侶だと見てすぐにわかるように、バーンスタイン公爵家の紋章入りのジャケットは私の色であるロイヤルブルーに仕立てている。
「クリスさんのジャケットとお揃いなんですね」
「そうだ。我々は夫夫だからな。夫夫は揃いの服を身につけるのがマナーなのだよ」
「じゃあ、僕とクリスさんが夫夫だって服を見ただけですぐにわかるってことですか?」
「ああ、そうだ」
自信たっぷりに答えると、トモキが突然俯いた。
もしや嫌だというのではないだろうな?
「トモキ?」
声をかけると、トモキが真っ赤な顔をあげた。
「なんか急に実感しちゃって……嬉しさが込み上げてきちゃいました」
「くっ!!」
なんて可愛いことをっ!!
このままベッドに押し倒したくなる。
必死に愚息を抑えつけながら、
「私も嬉しいよ」
とトモキを抱き上げ、急いで寝室を出た。
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