神聖女に転生した私、ダンジョン封印を任せられていたけど悪役聖女に仕事を奪われた挙句に追放されてしまったので、友達の勇者とパーティを組み、大活躍して称賛されて冒険者で自由を謳歌しまーすっ!

椿紅 颯

第一章

第1話『神聖女、領地から追放されて笑う』

「――本当に、その判断に後悔はないのですね」


 私は今、領主が開催しているパーティーへ急に呼び出され――沢山の人の前という公開の場で追放宣言を受けた。


「後悔も何もあるまい。新しい有能な聖女に仕事を担ってもらいたいと思ただけだぞ?」

「ふふっ。有能だなんて、褒め上手ですねっ」

「事実そうだろう?」

「それに比べ、【神聖女】って……名前負けしてかわいそう」


 聖女マリナス。

 彼女の名前は聞いたことがあるけど、どうせ領主に言い寄って自分の地位を得たのだろう。

 どんな姑息な真似をしたかはわからないけど、領主タレル様とあんなにベタベタくっついちゃって。

 腕と手を絡ませるに留まらず、体まで密着させて明らかに関係が出来上がっている証拠じゃない。


 それにしても、周りの人間は演者か何かなのか。

 この領地のために尽くし続けてきた私が虐げられているというのに、誰一人として庇うことがないどころか、あの2人同様に嘲笑っている。


「あらあらまあまあ。自分が嗤われていることすらわかっていない様子よ?」

「元々、周りに気を配ることができず、察しも悪かったからな」

「なんてかわいそうな人なの。それで【神聖女】なんて、いったい誰が呼び始めたのかしら」


 はぁ……日本人の相手を思いやる心が、まさかこんなかたちで悪い方向へ傾いていたとは。

 相手の表情から感情を読み取り、言葉の裏を読む。

 それをすることによって、相手を不快にしないどころか気を遣うことで、揉め事や面倒事を上手く回避してきた。


 はぁ……だというのに、まったく。


「もう、その顔を二度と見せないでくれ【神聖女】ルミナ――いや、もうか」

「当然、全てを置いていってね? 毎日、ろくに仕事をしていなかったのだから当然よね~」

「最後にもう一度だけ確認しますが、本当にいいのですね?」

「何度も言わせるな無礼者!」

「――わかりました。では、これにて失礼します」


 私は深々と一礼する。


 ここでご飯を食べさせてもらい、お金の貰い、不自由なく生活させてもらった。

 それに対する感謝の意味を込めて頭を下げなければ、恩知らずと女神様から怒られてしまうもの。


 頭を上げ――下衆な笑みを浮かべ、汚い思惑が渦巻く居心地の悪い部屋を後にした――。




 ――ああ、やっぱり外の空気は美味しいし、そよ風は心地良い。


「ひっそりと買っていた、外出用の衣類が残されていてよかった」


 ドレスがアクセサリー類は全て脱ぎ捨て、パパパッと着替えてきた。


 もはや全てが計画されていたことなんだと思う。

 なんせ追放宣言される前と後には、いつも護衛のために付き添ってくれている衛兵が居なかったもの。

 だから最後に部屋へ戻ることができた。

 あんなひらひらなドレスを着たまま外に放り出されたら、本当にどうすればいいのか抱えてしまっていただろうから感謝感謝。


「でもなぁ~。転生してからは籠の中の鳥みたいな生活だったから、世間知らずなのはかわりないけど」


 と、考えながら剪定された豪華な庭から敷居の外へ踏み出した。


「こうして外に出たのはいつぶりかしら。2カ月前ぐらい?」


 そして、目的もなくとりあえず足を進める。


 転生してから早16年もの月日が経っていた。

 その間、1人で外出することはほとんど許されず、1年間で10回あればいい方だったかな。

 ずーっとダンジョンと屋敷を行き来していた生活だったから、こうして木々が生い茂る場所を歩くだけでも楽しくて仕方がない。

 澄んだ空に雲が漂っているだけで眺めていられるし、時折通過していく小鳥たちは本当に楽しそう。


 つい柄にもなく鼻歌を奏でながらスキップを――しちゃってもいいのか、今は。


「ふっふふ~ん」


 これ、なんだか楽しいかもっ。

 想像以上の開放的な感じが、これから何度でも味わえるなんて考えるとワクワクが止まらない。


 今はドレスではなく、普通の町娘みたいな目立たない格好をしているから誰に見られたって構わない。

 最初は、天性前では考えられないお姫様みたいな生活に心が躍っていた。

 スマホやパソコンもない生活に不安だらけだったけど、今では何も気にしていない。

 さすがに電車とかバスは存在してくれていた方がありがたいけど……そう、せめて自転車とかあったら1人での移動が楽なのに。


「はぁ……この世界じゃ、馬車とかに乗って移動するのが一般的だもんなぁ~」


 急に現実的なことを考えて気分が落ち込んでしまい、足を止めてしまう。


「でも、私は冒険者になりたいという夢がある!」


 数年前に1人で抜け出して街に行ったとき、友達になった子が居た。

 あの子は、私と同い年なのに若くして自分でお金を暮らして生活するため冒険者になったらしい。

 また会えたら、いろいろと聞けそうだけど……街に辿り着けるかな。


 食べ物とか飲み物とか――自由を得たからこそ、不安が押し寄せてくる。


「それに――」

『ワオーン!』

「やっぱり、モンスターもあちこちに居るよね~」


 どこかから聞こえる遠吠えは、まだ野犬の可能性もあるけど全てはダンジョンのせい。


『ヒヒィーンッ!』

「え……」


 今まで馬のモンスターはみたことがない。

 もしかしたら襲われちゃってるのかな……?


 手遅れかもしれないけど、声のする方へ向かってみよう。

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