とある村の話

@kaeeeeeeeeee

第1話

僕、正人の出生は謎がある。どこで生まれたか、どこの病院で生まれたか、出生時の体重は何グラムか、一般人が持ち得る情報を何一つ知らない。だがそれを除けばただの高校生だ。父は公務員、母はスーパーのレジ打ちというお手本のような家庭に生まれ、何不自由ない生活をしている。

高校からの帰り道、彼女の明美と話しながら帰っていると、ふとこんなことを言われた。

「正人の指ってなんか変だよね」

「生まれた時から形がおかしいんだよ。母親も似たような形をしてて、いらないとこ遺伝しちまったよ。」

具体的に言うと左手中指、薬指が外側に跳ねるように曲がっている。小学校の頃はよく気味悪がられていた。母親に相談したことが多々あったが、病院には頑なに連れて行って貰えず、相談する度に母親が不機嫌になり、黙りこくってしまう為相談することも無くなった。

「なんかスマホとか持ちにくくないの?」

「まあ17年もこの体だから不自由は感じないかな」

そんなことを話していたら自宅が見える距離まで歩いていた。

「また明日ね」

「うん。また明日」

言葉を交わすと、明美は自転車に跨り、颯爽と道を進んで行った。明美は家から遠回りになるにも関わらず毎日僕の自宅まで着いてくる。負担になっていないか訪ねとところ、この時間が心地いいそうだ。夕焼けに照らされ遠ざかっていく彼女の背中を見ると、寂しさを覚える。

僕の家には定期的に母宛に手紙が届いている。差出人は書かれておらず、送り先は後矢塚村と書かれている。一度中身が気になり開けようとしたことがあるが、母に見つかりこっぴどく怒られた。普段温厚な母が怒った姿はそれ一度きりである。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

とある村の話 @kaeeeeeeeeee

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ