14話:イナバくん反抗期!?あらたなる一歩!!

 

 自宅。

 アパートの一室。


 先日の戦闘で負った体調不良。

 それを癒すためにも今日は寝る!こもる!

 その予定だったんだけど、今、私は自室で正座している。

 説教を聞かされているからだ。



「現星人との接触、干渉は、お互いのために極力避けるよう言っていたはずだがね?」


「はい、分かっております……いえ、破っておいて分かってるなどとは傲慢ごうまんではありますが……」


 STES総長ジンギによる説教だ。

 空中に浮かぶ画面から、ねっとりとした言葉が飛んでくる。


「緊急の事態では臨機応変な対応が求められるのは確かだがね!?しかしワタシも立場上まったく注意しない訳にもいかなくてな!?それだというのにキミらは対話すら拒否して勝手な……」


 ミタマはペコペコしてばかり。

 私は黙ってハイと答えることしかできない。



 説教するジンギ総長の横でクネクネしていたヒルメノ部長が喋りだす。


「イナバくんも、ヘリの操作に協力したそうじゃない?」


「……」


「AIであるアナタなら、ヘリをうまく操縦できるのは分かるわ。でも搭乗員に恐怖を与えたのは事実なのよ?」


「……」


 イナバくんは黙っている。

 しかし、前とは違う。


 前は、下を向いて神妙な顔をして、なんとか耐えようとしていた。

 しかし今は、ヒルメノ部長をまっすぐに見つめている。

 その眼には、生命の輝きが感じられた。


 黙るイナバくんにイライラしたヒルメノ部長が呼びかける。


「ねえ、イナバくん!!」


「ボクは、間違っていたとは思いません」


「「「!?」」」


 ミタマも、ジンギ総長も、ヒルメノ部長も、ギョッと驚いた顔をしている。


 閉めきった部屋のカーテンの隙間から、一筋の光が入ってきた。



「ボク達は決して人命を軽視していたわけではありません。ですが、彼らは違いました。自らの命を軽視して行動する者、規範ルールを乱す者を丁重に扱えば、損をするのは現場で戦う者と、規範に従う人たちです」


「……だったら軽視する者を危険に晒していいと?」


 ジンギ総長が質問する。

 尋問と言ってもいい。

 犬が威嚇する時のような、低く震えたような声だ。


「危険に晒した事、それ自体は目的ではありません」


 イナバくんは胸をはって答えた。


「これから多くの人を救うために必要だった、勝利への過程です」


「非人道的だな」


「AIですからね」


 ジンギ総長は顔を下に向け、眉間みけんを抑える。


「……怪獣の仕業ということにしておく」


「総長!」


 ミタマが、おそらく無意識に口を挟む。

 しかし、総長は止まらずに語る。


「地球人に余計な不安を抱かせるわけにもいかん」


「だが」


 総長は私に向かって指をさした。


「今回だけは、だ。こんな誤魔化ごまかしは2度も通用せんし、させんぞ」


 ぐっ……。


「それと、イナバくん」


「はい」


「私は素直に謝れない者は嫌いだ」


「……失礼しました」


 そう言って、総長は画面から離れていった。

 画面に残っているのは、ヒルメノ部長だけ。


「イ、イナバくんどうしたの!?あんな事言う子じゃなかったじゃない!?」


「ボクは自分が知りたいだけです」


「……???」


「だから、AIらしくないことも、してみたくなった。それだけ」


 イマイチ理解してない様子のヒルメノ部長。



 ……反抗期だなあ。

 羨ましいな。

 私は他人に反抗しないまま大人になっちゃったから。


「と、とにかく、人を困らせちゃダメよ!いい?」


「……」


「んもう……!」


 そう言って、ヒルメノ部長も画面から離れようとしたその時。

 イナバくんが、目の下に前足を置いて、舌を出した。

『あっかんべ』だ。


「イナバくん!?」


「人に迷惑をかけるな、なんてできません。ボクがボクの意思で行動する限りは、きっと」


 イナバくんが、一歩前に出る。


「だからボクは、かけた迷惑以上の貢献こうけんでボクを示したい」


「……!」


 驚くヒルメノ部長。

 息を呑み、私をギッとにらんだ。

 なんで???


 そして、画面がフッと消えた。


 緊迫した空気が抜けていく。


「イナバくん!」


 声を荒げたのはミタマだ。


「そういう態度は、その……困る」


「……ごめんね」


 少々しゅんとしたイナバくんの表情。

 ミタマに対しては、ホントに悪いと思っているようだ。


「イナバくん!」


 今度は私が声をかける。


「スッキリした?」


「……うん!」


 やわらかで、心から嬉しそうな笑顔だった。


「ザクロ!何を吹き込んだんだ!」


「知らないよ!でもイナバくんが嬉しそうだからさぁ!」


「そもそもキミがあんな提案しなければなあ!」


「あの時は同意してたじゃん!今さらそんな事言うのは覚悟が足りないよ!」


「根性足らずが偉そうに~~!!フンだ!!」


 ミタマが後ろを向いて部屋のスミに座り込む。

 すねちゃった。



 私は口を動かさず、イナバくんを見ながらミタマを指さす。


 イナバくんも口を抑えて静かに笑い、ミタマの隣にピョンピョンと跳ねよっていく。

 そして、こちらへ振り向き、ウインクした。


 イナバくんを包む青い光が、いつも以上に柔らかく見えた。









「……ところでイナバくん。『自律誘導爆炎弾』って名前、長くない?」


「良い名前が思い浮かばなかったんだよー、ザクちゃんが付けてよ!名前」


「ええ?えっと……じゃあ…………『天道虫(レディバグ)』とかどうかな……」


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