9話:『自分』ってなに!?そして来たる怪獣!!
「『自我を持つAI』……」
「そう、それがボクなんだ。今のところボクしかいないんだって」
すごいな……。
よく分からんけど、すごい。
「自我をもつおかげで、自発的な行動やデータの分別、知的生命体に近い創造性や共感や表現、時間はかかるけど高品質な応答……などが可能になっているんだよ!」
「……つまり、より人間っぽいAIになってるってこと?」
「まあ、そういうことなのかな」
「戦闘ロボットの……」
と、言いかけてハッと口を閉じた。
しかしイナバくんは回答する。
「『戦闘ロボットのAIに
話の流れから私の質問を的確に予想する。
これも『自我』のパワーなのか。
「たしかに戦闘だけなら自我は不要だろうけど、ボクはそれ以外の様々なサポートを請け負っているからね。修理とか交渉とか!」
「大変じゃない?疲れない?」
イナバくんは静かに驚いたような顔をした。
一拍置いて、フフッと笑いだす。
「やだなあ、熱のせいで処理能力が一時的に落ちるとかはあるだろうけど、AIが疲労なんて」
「うーん……」
「ザクちゃんこそ疲れてない?なにか悩みとかあったら遠慮なく言ってね。なんてったってボクはAI!知的生命をサポートする最高の相棒のつもりだよ!」
「……イナバくんこそ」
「え?」
「なんか悩みがあるなら、相談した方がいいと思う……よ。私じゃなくても、ミタマにでも、さ」
「……」
イナバくんは少し暗い顔をしてうつむく。
「ボクは人間と違って、悩みがあってもストレスで体調くずすとかは無いから……」
「仲間が悩んでると、
「……やっぱり?」
「『やっぱり』って?」
「ミタマも同じ事言うんだ」
「ミタマが……」
アイツもイナバくんの事、気にかけたりするんだな。
なーんて、偉そうな事を思ったり。
──イナバくんのアバターが、少し揺らいだ。
「ボク、開発部長の事が好きじゃなくて」
やっぱりか。
ヒルメノ部長に対するあの態度。
『嫌いだけど接触せざるを得ない相手に、心を殺して応対する時の態度』だった。
私自身も過去、狭い社会の中でやり続けてきた態度だ。
「あの人はボクの事を子供みたいなものって言うけど……」
「言うけど?」
「なんていうか、それがイヤって気分になることがあって……他にも色々……」
「色々って?」
「……それは、ちょっと……」
ちょっと……言えない、ってことか。
ミタマにだったら言ってたのかな?
いや、ミタマはSTESへの忠誠心すごそうだしなあ。
「AIは人を助ける、そういうものだってのは分かってるつもりなんだけど……それでもイヤって気持ちは消えなくて……」
イナバくんを
「開発部長は、なぜ……ボクを、どうしたいんだろう」
「ボクは……何者なんだろう」
……『自分は何者か』かあ。
イナバくんはイナバくんだよ。
なんて、無責任な慰めが言えたらよかったんだけどなあ。
人の心に響く言葉なんて持てるはずもない。
社会の中の自分を捨てた私には。
「ありがと、ザクちゃん」
「え?」
「悩み聞いてくれて」
「あ、うん。ごめんね、いい回答できなくて」
「いいよ、聞いてくれるだけでも」
配慮できるというのも、考え物だなあ。
──結局なにも言えずに、三日が過ぎてしまった。
明日が怪獣の出現予定日。
トイレにこもりながら、ソワソワとせわしない私。
勝てるかなという単純な不安と、また怪獣をぶん殴れるという期待。
正直、誰かに思い切りマウントを取れるというのが気持ちよく感じていた。
パイロットを志願した理由には、それが含まれていた。
今思えばそんな気がする。
イナバくんの手助けができなくて、モヤモヤした気分。
怪獣殴って
……他者を攻撃してストレス解消とか不良か私は!
相手が説得不可の
立派な人間になりたい奴の考える事じゃないってーの!
自己嫌悪とモヤモヤとソワソワが渦巻く。
頭をワシワシとかきむしる。
「ワハハ、落ち着かないかザクロ!」
腕を組み、壁を背にしてミタマが笑う。
隣にはイナバくんもいた。
いやここトイレなんですけど?
「だがな、テラス因子を出すためにも、ザクロはどっしり
「んなこと言われても……」
「もし失敗しても、お前のケツは俺が拭いてやるさ」
「ボクも拭いてあげるよ!」
トイレ中に変な比喩表現をするな!
宇宙人とAIにケツを拭かれる自分をイメージしてしまう!
「そんなヒーローいないでしょ」
「いるぞ」
「……いないでs」
「いるぞ。宇宙には」
なんだこの『圧』は。
ミタマの背後から宇宙の多様性を感じる……!
深遠なる暗黒の中で色とりどりに輝く星が……!
「わ、わかったからトイレから出てってよ」
私がそう言うと、ミタマは何かに勝利したかのように小さいガッツポーズをしてトイレから出る。
なんなんだアイツは。
また時は過ぎ、決戦当日。
前回の戦いで破壊された、東京の1画。
いや、1画というには広すぎる範囲ではあるけど。
撤去されないままのガレキが残る景色を、モニター越しに眺めていた。
タカマガモリのコクピット内。
私はお昼のカップ麺をすすっている。
怪獣出現を待っているのだ。
タカマガモリは前回、大気圏内で待機していた。
が、今回はすでに地上に降り立っている。
出現場所は分かっているしパイロットもいる。
現地民にも存在は知られている。
となれば、先に現地で待たない理由もない。
……と、ミタマが言ってた。
自衛隊のお陰で、近隣住民の避難はもう済んでいる。
おかげで前回とは打って変わってずいぶんと静かだ。
……だけど、遠くのビルの屋上には望遠カメラを構える人影が見える。
空にはヘリが遠巻きに飛んでいる。
ヘリの中には国内のTV局とは思えない
突然現れた怪獣、そして巨大ロボット。
世界中が興味
「避難してほしいんだけどなあ」
「ぬぬう……自分から危険区域に入っていくなら、流石に
イナバくんとミタマが
愚痴ではあるが、正論だとも思う。
もしこれでヘリが戦闘に巻き込まれたら、こっちの責任になるかもしれない。
そんな精神的負担が、どれだけ戦闘に影響するのか。
向こうは知ったことじゃあないんだろうな。
図々しいのは、本当に嫌いだ。
そういえば前回の戦闘では、総死傷者数ゼロだったと聞いた。
決して何の被害もなかった訳ではない。
それでも、素直に嬉しい話だった。
私の頑張りもちょっとはあったのかも、ね。
これからもそうであってほしいけど……。
と、すこし心配してしまった私。
そこにイナバくんが声をかける。
「あ、もちろんそれでも守れる人は守っていくつもりだよ!なんたってボクは……」
「俺たちはSTES、正義の組織だからな!」
「……うん」
正義を自称する奴ほど胡散臭いもの。
だけど、今だけは頼もしく見えてしまう。
──と、操縦席のデスクに置いたカップ麺のスープが震えだす。
地震だ。
小さい縦揺れは、段々と大きくなっていく。
私は急いでスープを飲み干し、操縦の姿勢をとる。
「来るぞ!」
ゴゴゴゴと血の底から響くような音。
ような、というか実際に地の底から鳴っている。
地面の一点が、ボコボコとせりあがってきた。
イナバくんが解析を始める。
「熱源の大きさは…… っ!?」
息を呑むような音が聞こえる。
「大丈夫!?」
「うん、熱源反応、複数確認!」
「なんだとお!?」
「全部、1箇所から出現しようとしてる!これは……!」
膨らむように盛り上がった地面。
ドオンと破壊音をあげて割れた。
そこから飛び出した怪獣は──。
「虫の……大群!?」
そう言うしかなかった。
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