第64話 ダンジョン倶楽部の反応
~side リーダー佐藤翔太~
「いやあ、SSさんの指導まじすごかったな!」
SSさんのドローンを見送った後、すぐに奏が今日の感想をもらす。俺も大輝も同じことを考えていたので、深く頷く。
「あの人がいなかったら、俺死んでかもしれなかったからな……」
自分で言ってあの時のことを思い出したのか、大輝がぶるっと身震いした。俺も奏も一瞬最悪の事態を想定したくらいだ。当の大輝はもっと恐ろしい思いを経験したのだろう。
「けど、あれのおかげでちゃんと気をつけるようになれたよな。あんな経験をして死なずに済んだからこそ、本気で改善することができたと思う」
そう、奏が言うように普通なら仲間か自分を犠牲にして初めて気づかされるようなことを経験して、無事でいられたのはもの凄くラッキーなことだと思う。
「それに、俺達今日だけで随分成長したと思わないか?」
「それな! 絶対俺達強くなったぜ!」
「俺もそう思う! 最後なんて俺達だけでバイトドッグ四匹倒せたんだからな!」
俺がそう問いかけると奏も大輝も興奮したように賛同してくれた。レベルが上がったこともそうだが、何より戦術や効率的な動き、魔物の動きを予測することなんかが格段に上達した。これも全てSSさんのおかげだけどね。
「これで魔石の納入数もクリアできる目処がたったんじゃね?」
そうだ。奏の奴いいこと言うじゃないか! 今回の探索でいつもの十倍以上の魔石を稼ぐことができたのだ。今は大学生だからそれほど税金はかかっていないが、この先上手いこと稼げるようになったとしても、税金の心配をしないですむ。
「俺達もいっぱしの探索者になったわけだ」
そう言う大輝の顔は喜びでにやけている。いや、大輝だけじゃないな。俺と奏もつられて頬が緩んでしまっているようだ。
「これだけのことしてもらってたった三万円か……激安じゃね?」
奏の呟きに思わず三人で目を合わせる。そうなんだよ。探索者として一人前に鍛えてもらって、魔石をたくさん稼がせてもらって、索敵や戦闘補助までお願いして、レベルアップまでできて、たったの三万円。一人一万円しか払っていないのだ。
「それによ、この後今日の動画が送られてくるんだろ? それを配信したら収益の八十パーセントが俺達のものになるんだよな?」
大輝のセリフに三人が同時につばを飲み込む音が聞こえた。確かに俺達は国士無双や百花繚乱といったパーティーに比べたら、随分見劣りするだろう。見劣りどころか、Fランクと言えば探索者でも底辺だ。
しかしだ。あのSSさんの撮影だと思うと期待せざるを得ない。彼らは確か億単位で稼いでいたはずだ。その半分、いや十分の一だって稼げれば俺達にとってはものすごい大金なのだ。
「明日の午前中、俺の家に集まろう」
動画が送られてくるのは明日か明後日と言っていた。リーダーである俺の家のパソコンに送られてくる予定だから、一応明日かもしれないので二人を誘っておく。
「オッケー、九時くらい目がけて行くわ」
「同じく。ついでに朝飯買っていってやるよ」
当然だが奏と大輝も即答でオッケーだった。
辺りも暗くなっていたので、俺達は今日のお祝いに焼き肉を食って帰ることにした。
▽▽▽
次の日の朝、予定の九時よりだいぶ早く二人が家に来た。二人とも楽しみすぎて早くに目が覚めてしまったようだ。
奏が買ってきてくれたサンドイッチを食べながら、パソコンの電源を入れる。
「うわ、もう来てるぞ!?」
俺達がダンジョンに潜っていたのは六時間ほど。それを三時間の動画にまとめてくれている。こんなに朝早くに送られてきているということは、徹夜で作業してくれたのだろうか。
Fランクパーティーのためにここまでしてくれるなんて……俺達三人は自然とパソコンに向かって手を合わせていた。
「さて、まずは俺達で見てみるか」
俺もちょっと声が震えていたが、それを聞いた二人のつばを飲む音が聞こえてきた。みんな同じくらい緊張しているようだ。
「ぐは! 俺が噛んでいるところまで撮られていたのか!」
なんと、この動画のスタートは俺の恥ずかしい自己紹介からだった。さすがにこれは編集したいと思ったのだが、これはこれで面白いからと二人に止められてしまった。
ダンジョン内に入るとドローンが高度を上げ、辺りを望遠カメラで映し出す。すぐにバイトドッグ二匹を見つけて案内してくれる。まるで斥候の見本のような動きだ。
「めっちゃ見つけるの早いな」
「それな」
あの時も思ったが、大輝と奏もその早さに感心している。
「うわ、俺の説明穴だらけだな。今だからわかるけど、最初はこんなんだったのか」
見た通り、最初の戦闘は俺が指示を出していた。これじゃあ、大輝も気がつかずに突っ込んじゃうね。自分の指示の悪さに思わず苦笑いになる。
「それがわかるってことは、やっぱり成長したってことだよ」
奏がすぐに慰めてくれた。ディスプレイからは目を離していないけど。
「うお!? 矢について行ってる!?」
奏が驚きの声を上げる。確かにこんな映像初めて見た。レンタルドローンでは到底無理だろう。みんなが大騒ぎするわけだ。自分達の戦いをこんな風に撮ってもらえたらそりゃ人気が出るに決まってる。
それにしても、何で俺達の依頼を受けてくれたのだろうな? AランクやBランクの依頼もあったはずなのに。
「うわあ、めっちゃいい映りでバカな行動してる……」
大輝がバイトドッグに挟み撃ちにされているシーンだ。俺達は凄い慌てていたのに、SSさんのドローンは冷静だ。俺達の必死な形相を映す余裕があるし、いつでも大輝のサポートには入れる位置にいる。
「これ、俺達が間に合わなくてもSSさんが助けてくれたな」
奏もそこに気がついたようだ。この映像だけで気がつくとは、ほんと俺達成長したよな。
そして、そこからの映像も圧巻だった。的確な指示、抜けのない作戦、豊富な情報量、どれをとっても一流のリーダーの振る舞いだった。これはぜひ俺達のような低ランクの探索者に見てほしい。
SSさんの手助けがあったとはいえ、Fランクの俺達三人がクロウキャット三匹を一方的に倒せたのだ。これはとんでもなくいい教材になるだろう。なにせ、どんどんと連携が上手くなっていくのが見て取れるし、的確なアドバイスのおかげで途中からは俺達だけで作戦を立てることができるようになっているし。
最後なんてバイトドッグ四匹を華麗な連携で無傷で倒しきってるんだぞ。
「やべ、俺めっちゃ感動してる」
「奇遇だな、俺もだ」
三時間の大作を見終わった大輝と奏は感動で涙まで流している。もちろん、俺もだが。SSさんの撮影技術は素晴らしく、こんな俺達でもかっこよく見えた。
ただ、これを配信したときの世間の反応が怖い。国士無双や百花繚乱に比べたらやっぱり華がないからな。魔物も弱いものばかりだし。だが、配信しないというわけにはいかない。この収益の二十パーセントがSSさんの取り分になってるから。
「よし、じゃあ押すぞ」
二人が見つめる中、俺は震える手でマウスをクリックするのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます