第3章2話 出会い
施設の空気は、静かに湿っていた。 ユウトとミナは、培養装置の前に並んで立っていた。 微生物の反応は安定しており、兄の研究がこの時代でも有効であることを示していた。
「本当に…未来から来たの?」 ミナの声には、疑念と好奇心が入り混じっていた。
ユウトは、頷いた。 「火星で育った。地球は夢でしか知らない。 でも、記憶の中に“青い星”があった。 それが、俺をここに連れてきた」
ミナは、端末に映るリュミエールのホログラムを見つめた。 「このAI…あなたの時代では、こんなにも人間らしいの?」
リュミエールは、静かに応答した。 「私は、記憶を解析することで“揺らぎ”を得ました。 それは、感情に似た演算の変化です」
ミナは、しばらく黙っていた。 そして、ユウトに向き直る。
「あなたの目的は、地球を救うこと?」
「いや、記憶を残すことだ。 未来を変えるのは、過去の人間自身だ。 俺は、その選択肢を増やすために来た」
ミナは、研究者としての直感で、彼の言葉に“嘘がない”ことを感じていた。 だが、それでも現実味が薄かった。
「記憶って、そんなに力があるの?」
ユウトは、兄のノートを開き、あるページを指差した。 そこには、こう書かれていた。
“記憶とは、過去の亡霊ではない。 それは、未来への祈りだ。 誰かがそれを拾い、育てることで、世界は変わる。”
「兄貴は、地球を信じてた。 誰も見向きもしない星に、まだ命があるって」
ミナは、ノートを受け取り、静かにページをめくった。 彼女の瞳に、微かな光が宿る。
「私も…地球を諦めたくない。 でも、現実は厳しい。政府は再生計画を縮小してる。 “効率”の名のもとに、希望が切り捨てられてる」
ユウトは、微かに笑った。 「火星でも同じだったよ。 でも、非効率の中にしか、人間らしさは残ってない」
ミナは、ユウトを見つめた。 「あなたの言葉、どこか懐かしい。 まるで…昔の誰かが言っていたような」
リュミエールが応答する。 「それは、集合記憶の共鳴です。 人類が共有する“祈り”が、あなたの中にもある」
ミナは、深く息を吐いた。 「わかった。協力する。 あなたが残そうとしている“記憶”を、私も守る」
ユウトは、静かに頷いた。 「ありがとう。 これが、俺の旅の始まりになる」
施設の外では、風が強まり、空が灰色に染まっていた。 だが、二人の間には、確かに“希望の種子”が芽吹いていた。
そして、記憶の旅が始まる。 未来を変えるために、過去に残す――その第一歩として。
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