路上占い、あれこれ㊶【占い師は本業で苦労する】

崔 梨遙(再)

今回は1608文字です!

 崔は、20代半ばから求人広告の営業をやってた。営業未経験の中途採用だった。慣れない営業の仕事に慣れた頃、ようやく僕は『一人前』と呼ばれるようになった。先輩に同行したこともあった。


 ビックリしたのは短大卒、2年目、22歳の美人営業マンだった。その女性営業マン(澪:みお)に同行したら、お客さんからの質問に対してことごとく、


『わかんないです~♪(はあと)』


と答えるのだ。まず、その営業スタイルに度肝を抜かれた。そして、そのヒドい対応に、お客様が気を悪くせず笑顔で話が進んでいくのだ! 凄いぜ! 澪! 僕はそれだけで年下の先輩の澪を尊敬した。そして、僕は(なんや、それでええんか)と思ってしまった。



 後日、僕は自分のお客さんとの商談で質問されて、


『わかんないです~♪(はあと)』


と答えてみた。すると、お客さんに真顔で、


『しばくぞ!』


と言われた。ヒドい、言ってみたかっただけなのに。



 後日、いつも通り定時をとっくに過ぎてようやく帰ろうかと思ったら、課長が怪しい笑みを浮かべて近寄って来た。


「崔、帰りにもう1件回ってくれ。直帰でいいから」

「今からですか? 急ぎですか?」

「ああ、澪にお客さんからクレームが来ていて、澪に『早く来い』と言ってきているんだ。この前、他の代理店で女性営業マンがクレーム対応に行って監禁されたからな、クレーム対応は男が行くことになったんだ」

「わかりました・・・どんなクレームですか?」

「応募ゼロだったことに対してお客さんは怒ってる」

「どんな原稿だったんですか?」

「これだ」

「え! 1番小さい枠で、この条件? 応募が来るわけないじゃないですか」

「澪がそれをお客さんに伝えていなかったんだ」

「それで、僕が行くんですか? キツイなぁ」

「頼んだぞ、崔」

「・・・・・・」


 僕はお客さんの所へ行った。


「すみません、岩井(澪のこと)の先輩(本当は澪の方が先輩だけど)の崔と申します。この度は、岩井の営業に関しましてお怒りだと聞いて参りました・・・」

「おう、奥へ行け」


 奥の部屋へ通されて・・・カチャーン、鍵をかけられた。


「納得がいくまで帰さないからな」

「・・・・・・」


夜は長い。


 とはいえ、応募がゼロだったからクレームになったわけで、応募がゼロだったのだから求人ニーズはまだあるのだ。僕は夜中までかかって火消しをして、適正な広告サイズの申込書をもらって出たら朝だった。始発で帰ってシャワーを浴びて着替えてまた出社した。『クレームから申込書をもらう男』ということで、それから僕は全ての女性営業マンのクレーム対応に行かされるようになった。給料は増えないのに。



 僕がいた会社には何人かテレフォン・アポインターさんがいた。アポを取るだけの仕事だ。とったアポには営業マンが行く。


 その中で、1人、20代後半の美人・ナイスバディー・お色気むんむんスタッフがいた。電話を通して色気が伝わるのか? 抜群のアポイント獲得数だった。だが、彼女には悪い癖があった。


『それでは、おうかがいします~♪(はあと)』


 まるで自分が行くかのようにアポをとるのだ。そして、彼女がとったアポには決まって僕が行かされる。行くと、絶対に言われる。


「え! あの女の子が来るんじゃないの?」


「あの女の子が来ると思ったからアポOKしたのに」


「詐欺だ!」


 まあ、ヒドい言われようだった。僕はまたそこで火消し。火消しが終わったら申込書を持って帰る。これがいけなかった。毎度、僕が申込書をもらってくるので、完全に彼女のアポは僕が行かされるようになった。



 やがて、僕はその会社を辞めることになった。送別会を催してくれた。気が進まなかったが、行った。22歳後輩(自分のことをめちゃくちゃカワイイと勘違いしてる)女性営業マン、鈴(りん)がサプライズでカラオケでビキニになり、僕に抱き付いてきた。正直、僕は鈴のことが嫌いだったからイラッとした。


「離れろや! 折りたたむぞ!」



 鈴との最後の会話は『折りたたむぞ!』 だった。





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路上占い、あれこれ㊶【占い師は本業で苦労する】 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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