スキル《お昼寝》で世界最強になりました ~寝てるだけでレベルがカンストするポンコツ少女のスローライフ~

Ruka

第1話 スキル《お昼寝》、ハズレスキルだと思ってました

昼下がりの草原は ぽかぽかしていて

風はやわらかくて

空はどこまでも青かった


「……んぅ……ねむ……」


木の根っこに背を預けて 目を細める

もう少しだけ寝かせてほしい

だって今日の目標は お昼寝することだから


わたしの名前はルナ

生まれつき持っていたユニークスキルは《お昼寝》

戦えない 働けない ただ眠るだけ

誰がどう見ても ハズレスキルってやつだと思ってた


「ルナー! またこんなところで寝てるの!?」


聞き慣れた声が近づいてくる

わたしの幼なじみ ティアだ

いつも怒ってばかりの しっかり者の女の子


「ねえ起きて スライムがうじゃうじゃ出てるよ!」


「んー……だいじょぶ……」


「どこが大丈夫なのよー!」


ティアが叫んだ瞬間 わたしのすぐ横で

ぼふっ、と音がした

薄目を開けると スライムがぷるんと弾けて消える


……え?


「え なんで 今スライムが爆発したの……?」


「さあ……寝てたからわかんない……」


「寝ててわかるわけないでしょ!」


ティアが髪をかきあげて 周囲を見回す

けど 近くにいたスライムたちは ぜんぶぷるんと光って消えた

風にまぎれて小さなキラキラが舞う

経験値の光だ


「ルナ これ……あなた倒したの?」


「え 寝てたよ?」


「寝てたのに……」


ティアの眉がぴくりと跳ねる

わたしも寝ぼけたまま メニューを開いてみる

レベル ──999


「えっ うそ」


「うそじゃないでしょ!」


「寝てただけなんだけど……」


「どうなってるのよ あなたの《お昼寝》スキル!」


ステータス欄のスキル詳細を開いてみる

《お昼寝》:眠っている間 周囲の経験値を吸収します

※ただし起きている間は効果がありません


「…………」


「…………」


沈黙が流れる

ティアが小さくため息をついた


「つまり 寝てるだけで経験値が入るってことね」


「そ そうみたい……」


「ふざけてるの? 努力ってなに? 修行ってなに?」


「ごめん……寝てただけなんだ……」


「謝る方向おかしいよ!」


ティアは呆れながらも わたしの手を引いた

「もう どうせならちゃんと調べなきゃね 検証よ!」

「えー でもねむい……」

「寝るなーっ!」



結局ティアに連れられて 近くの森に来た

「ここ スライムの巣窟よ 寝ながら戦ってみて」

「戦うって……寝るけど?」

「いいから寝て!」


仕方なく ふわふわの草の上に横になる

空がゆれて まぶたが落ちて

世界がとろけていく


すやぁ


──夢の中に 光があった

金色の髪の 知らない女の人

微笑んで わたしの頭を撫でてくれた


『眠りなさい 小さな子よ その眠りは 癒しの力となる』


声が やわらかく響く

眠気が深く沈んでいく

……あったかい



「ルナー!!」


ばさっと起こされる

ティアの声が耳に突き刺さった

「起きて! 全部倒した! 森のスライムが!」

「え ……また寝てただけだよ?」

「だからそれが問題なんだってば!!」


周囲は光の粒だらけ

地面にはスライムの欠片ひとつ残っていない


「……これ わたしがやったの?」


「寝ながら……ね」


ティアが頭を抱えて 空を見上げた

「こんなチート 聞いたことない……」


わたしはあくびをひとつして

「ふあぁ……でも なんかスッキリしたなあ……」


「スッキリどころか 世界記録よ」


寝ただけでスライム全滅

寝ただけでレベルカンスト

寝ただけで世界最強


なんか……努力する意味がわからなくなってきた


「ティア……わたし このままお昼寝で生きていこうかな……」


「ちょっと待って それ本気?」


「うん だって寝てるだけで強くなるし」


「……そんな世の中あってたまるかーっ!」


ティアのツッコミが青空に響いた

風がやさしく吹き抜ける

今日もお昼寝日和だ


わたしは再び目を閉じて ふわりと息を吐く

またどこかで あの金髪の女の人の声がした気がした


『おやすみなさい 眠りの少女』


……うん おやすみ


世界がスヤァと静かに揺れて

新しい日が始まった



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