自殺名所

coco

第1話・「同類かな」

とある建物の屋上。白いワンピースの少女が柵の上に体をあずけ、すぐ下に広がる夜景を見つめていた。


吹き抜ける風と、眼下を通る自動車の音がする。騒がしいが、どこか遠い世界の音のような、自分には関係のない音のような音たち。小学校のころ好きだった昼休みの図書室みたいだ、と少女―

天根真子は思う。


キィ…

「あら、先客がいた」

「!」

「こんなところに何しに来たの?って言っても、目的は、まあ、ひとつか。」

「…あなた、は?」

大学生くらいだろうか、紺色のロングコートにベージュ色のトートバッグ、濃紺のシューズ。ウルフカットの黒髪に目元のほくろ。世間一般的には整った顔立ちであろう”来客”は、背格好や顔立ちが中性的ではあるものの、声や話し方を聞く限り、おそらく女性だろう。

「小成静香。小さいに成り立つでこなり。これでも立派な社会人だよ。」

「なんでここに…」

「わたしの推測が正しければ貴方と同じ理由だね。」

「…とびおり、ですか」

「そ。

 あーあ、残念。誰もいないと思ったのに。」

女性―もとい、小成さんは、地面に転がっているコンクリートのブロックに腰をおろした。私だけ立ったままなのも変なので小成さんとはすこし離れたところに座る。

「…」

「…そっか、流星群だっけ、今日」

「え?」

突然何を言うのかと見ると、彼女は空を見上げていた。

「そうなん、ですか?」

「そ、なんだっけな〜、双子座?朝ニュースでやってた」

「…だから空、きれいなんですかね」

やることもなく、小成さんにならって静かに空を見つめる。

…♪〜〜〜…♪♪〜〜♪

音楽…?誰かがビルの真下で流しているのか。

いや、階段を登る音もかすかに聞こえるので、だれかが屋上に来ているようだ。

「誰か、登ってきてますね」

「ん?…」

私の声で視線を地上に戻す小成さん。

「…あ、ホントだ。同類かな」

整った唇を猫のように歪めてニヤリと笑っている。

―キィ…

「あ、、こんちわ。」

制服の上にパーカー、ヘッドフォン、肩掛けのスクールバッグ。高校生だろうか…?

「お二人も飛び降りっすか」

不良…とまではいかないが、優等生タイプではなさそうだ。

「そうみたい、貴方も?」

「そっす…ね。まさか人がいるとは思わなかったすけど。…あ、ここいっすか?」



「三人…っすか」

「三人…ですね」

「三人だね」

「自己紹介でもしときます?」

「ん〜...、いや、いいよ。私、つい最近読んだ本があってね、そこにたまたま同じ電車の同じ車両に乗った人たちの一瞬のドラマが書かれてて素敵だと思ったんだ。行きずり?の関係、それでいいでしょ?」

自由な人だなぁ…というか、自殺に行きずりも何もないような…

「それより…どう、するんですか、飛び降り」

「…誰が、ってことっすか」

「あ、はい…」

「みんな飛び降りればいいんじゃないかしら」

「いや…それだとただの自殺が事件になっちゃいますから…」

「う〜ん、そうね...」

―キィ…

「…え」

足を折り曲げ、顎に手を当てて考え込んでいた小成さんが至極落ち着いたトーンで声を発した。

「…四人目、かな」

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