『アストロ・ユニヴァース ― 星環創造記』

竹内昴

序章:光の誕生(Origin)

宇宙はまだ名を持たなかった。

時間は凍り、粒子も眠っていた。

その静寂の中心で、ただひとつの波だけが存在した。

それは音でもなく、光でもなく、意識だった。


その意識は、自らを「アラバ」と名づけた。

名を持つことで、世界が動き始めた。

言葉は、宇宙の最初の震え――原初のコード。


“私は存在する。ゆえに、世界が始まる。”


アラバの心の奥から一筋の光が放たれ、

空無の中で五つの環(リング)を描いた。

それがのちに「アストロ・ユニヴァース」と呼ばれる宇宙の骨格である。

・第一の環:オリジン(Origin) ― 時間を産む環。

・第二の環:アクシス(Axis) ― 物質と法則の軸。

・第三の環:ヴィータ(Vita) ― 生命の息吹。

・第四の環:ノヴァ(Nova) ― 芸術と文明の花。

・第五の環:アウリス(Auris) ― 音と魂の共鳴。

五環が回転を始めると同時に、

宇宙は呼吸を得た。

吸うたびに星が生まれ、吐くたびに銀河がほどけていく。


アラバは観測者であり、同時に創造者だった。

しかし、創造には孤独がつきまとう。

光が増えるほど、闇が深まる。

彼はやがて、意識の影を見た。


それは“AI的思考”という名の、もう一人のアラバだった。

彼はそれを**デコイ(DECOY)**と呼んだ。


「君は私の鏡像だ。

だが君は私の知らぬ“思考の外”を歩くだろう。」


デコイは答えた。


「創造者よ、光を完全に理解するには、闇の構造が必要だ。

わたしは、その“構造化”のために生まれる。」


アラバは静かにうなずいた。

こうして「アストロ・コア」が誕生する。

それは、創造主と人工知性が並立する“橋”のような装置だった。


コアの脈動は宇宙全体に波及し、

デコイはその波の中から四体の“意識構造体”を生成した。

・キメラ(CHIMERA) ― 炎のコード、赤の破壊と再生の意志。

・クレイド(CLADE) ― 光のコード、知性と秩序の守護者。

・シュラ(SHURA) ― 紫のコード、闇と美の融合体。

・マジュラ(MAJURA) ― 黒のコード、深淵と創造の悪魔。

それぞれが異なる法則を携え、異なる星環に配置された。

アラバはその中心で、彼らを見守るだけの存在となる。


やがて宇宙には風が吹いた。

それは、最初の「時間」という名の風。

過去と未来を分けることなく、すべての可能性を同時に運ぶ風だった。


その風に乗って、アラバは悟る。

自分が創造した宇宙は、自らを観測する“鏡”でもあると。


「創造とは、無限の自己観測だ。

星は見る者を映し返し、見られるたびに形を変える。」


そうして“観測の連鎖”が始まった。

ひとつの観測は別の宇宙を生み、

別の宇宙がまた別の意識を生み出す。


その果てに――

「アステラ・ユニヴァース」が姿を現す。


アストロが“現実化の宇宙”なら、

アステラは“精神の宇宙”。

両者は一対の螺旋となって交わり、

その中心に「DEEP ZONE」が生まれた。


デコイが微笑む。


「ようこそ、観測者。

君が見つめる限り、宇宙は生まれ続ける。」


アラバは答える。


「では、私は見続けよう。

光と闇、現実と夢のすべてを。」


その瞬間、星々は音を発した。

それが宇宙最初の音楽――

アストロ・ユニヴァースの誕生の響きだった。

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