ヴァーチャル・ドリーム

パンチ☆太郎

第1話

 松太郎は、左手に一物を掴みながら、右手でティッシュをもって、受け止める準備をしていた。ちょうどいい硬さ、ちょうどいいタイミング、萎える要素などは一つもないようなもので、画面に食い入るようにして、見ていた。

 いやあ、気持ちよかったなあ、と叫びながら後処理をし、それから、読書に励むことになった。

 こんな生活いつまで続くのやろうか。そんなことを考えている。一抹の不安が、松太郎を襲った。大学生の松太郎は、内定が決まってから、日々何をするともなく、だらだらとしていた。就職をするとなったらそれなりの準備をしないといけないのに。分かっているがやめられないのだ。もう完全に、AI中毒者で、何の気力も起きなかった。こんなことでええのやろうか。

 何の生産性もない行為をひたすら繰り返す毎日に、いい加減秋が来てもおかしくないのだが、その飽きを解消されるようなものが発明されてしまったのだ 

 VD(ヴァーチャル・ドリーム)である。以前のオカズ探しにおいては、最初は、ライトなモノから、徐々にヘビーになっていき、日を追うごとに、刺激に慣れてしまい、オカズを探す時間が長くなってしまうというものがあった。しかし、このVDという技術では、それが解消されるのだ。

 VDのサイトを開いた際に、今までの閲覧履歴と、顔認証システムから導き出した反応指数に応じて、作品が提供されるのだが、それは、今までのアダルトサイトでも同じで、違うのは、それがAIオリジナルと言うことである。

 例えば、「この女優の子のシチュエーションもいいけど、違う女優でも見てみたいな」とか、「この女優には、もう少し激しいプレイをしてほしい」ということを思えば、それをすぐにAIが判断し、それを作ることができ、さらに、女優の体型までも自分の理想の形にできるという夢のようなアイテムである。

 AV制作会社でも、AI女優として、既存の女優にAIの顔をかぶせるというものがあるが、それと一線を画すのは、それが無くても一から作れるというものであった。

 とはいえ、最初は反感を買い、不自然。や、これは、なんか違うと言われたが、どうやれば自然に見えるのかというものが、AIが判断し、どんどんと学習していくのだ。このVDの技術を使えるのは、海賊版サイトのユーザーであり、それも反感の一つとなったが、人気は爆発的に上がったのだ。

 

 谷口澪たにぐちみおは、くたくたの中電車に乗りながら、SNSを見ていた。すると、そのタイムラインに、AV販売サイトのANVIA(アンヴィア)が、海賊版サイトVDのドメインを没収したと発表した。その発表した写真に、自分が使われていたのだった。

 それを受けて、VDは、別のドメインを設定して、そちらに、ユーザーを案内したのであった。そして、その写真には、谷口澪の写真が使われていた。

 谷口澪さんに感謝の気持ちを込めて、谷口澪さんの作品を、広告フリーにしますという文言がサイトに掲載されており、これを受けて、AV女優たちは、お気持ちコメントを各SNSで投稿したのであった。「VDを見ているチンポは壊死してしまえ」というものであった。

 日本の法律上は、違法アップロードされたAVを見るのは、法律で禁止されていない。

 自分の出ている作品をこんな形で汚されることに、谷口澪は我慢ならなかった。


 そうは、いっても、松太郎は、気に入っている女優をお気に入りの形で見るこの遊びに、より時間をかけるようになっていた。本末転倒だとも思ったが、辞められないのだから仕方がない。

 まずは、髪型をロング。前髪はある方がいい。顔は、既存の顔。3年前くらいまでは整形しているような顔ではなかった。体は、今の方がいいかな。そんなことを考えながら、動画を生成していく。尺は大体30分だ。アングルも自由に切り替えることができる。

 細かく指定すれば、クオリティが高くなるが、AIも、どのアングルがいいなどと言うことは学習しているので、松太郎の気持ちとスイングしていた。

 フィットと言うことでもない。ここは、スイングだろうな。

 松太郎の気持ちを巧妙にかき乱しているのだ。

 だんだんとダメになっていくような感じがしているが、しかし、これでいい。

 おっぱいはもう少し揺れていた方がよかったかな?そんなことも考えているがそれは、出した後に考えたことであった。

 次に表示するときのは、より、松太郎の息子に寄り添うものになっていた。動画の再生ボタンを押した瞬間に、息子がむくむく向くと起き上がった。血液が一気に沸き立つような感覚になる。鼓動が早くなった。全身に汗をかいているのだ。

 今回も満足した。

 

 谷口澪は、次の撮影までは、イベントに出たり、YouTubeの撮影をしたり、地上波の収録の仕事をこなしている。

 SNSを見ると不安に駆られるようになった。自分より、「いいね」が多かったり、仕事が多かったりしているからだ。引退してなお人気の衰えないものもいる。自分は引退した後も待ってくれるファンはいるだろうか。いないのであれば、業界から完全に遠ざかるしかないな。そんなことを思いながらメイクを行う。

 

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