第12話
十二
「分かった。せっかくだし数学とはどう言うものか教えてあげよう」
谷川一誠が乗り気になってきた。
「数学とは、特に私が信じる数学とは、ユークリッドのように公理から始まるものだ。公理から厳密に、本当に厳密に推論を積み重ねて定理を打ち立てていく。その際、矛盾が生じたら最初からやり直しだ。推論や論理を駆使して一切の矛盾を許さないのが数学の特徴だ。それに対して物理学はどうだ?あんなものは経験則に頼っている。アインシュタイン然り、実験や観測でそうなっているからと言ってそれを真実だと思い込んでいる。そして信じられないことに『計算』を使う。あんな計算はまやかしだ。全然正しいとは思わない!具体的には……」
「ちょっと待って下さい!」
谷川の早口のまくし立てを私は途中で止める。しかしオタク?はこう言う時物凄い剣幕でしゃべるものだな。
「一誠さん、要はあなたには数学に対するこだわりがあると言うことですよね?」
「そうだ。その通りだ!」
「私は数学のことは何にも分かりませんが、数学と言う一つの分野を追求している一誠さんの気持ちは分かりました。もっと言えば、同じ『計算』でも物理学と数学は違うとのことで、細分化したこだわり、もっと言えば本当に掘り下げられたニッチな世界へのこだわりが感じられました」
「それが何だと言うのですか?」
ここで「X」が話の流れにカットインしてくる。
「お父さんや一誠さんはお気づきでないかもしれませんが、物事を細分化するのは難しい作業です。みんなもっとふんわり生きています。そうやって一つのことを掘り下げる。しかもそれを『自分の分野』として誇りを持つ。それはニッチになればなるほど、価値のあるものだと思います」
「なるほど……ニッチですね。私たち研究者ではそこに気づかなかったのかもしれません」
そう「X」がつぶやく。横目で谷川一誠を見ると、少し満足げだ。
「ご納得頂けましたか?」
「私は納得しました。一誠は、どうだ?」
「そう言われて納得したよ。数学の考え方が伝わって良かった」
「……では、今度は羽島愛瑠さんの番です。羽島愛瑠さんの良い所、一誠には分かるか?」
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