第7話

 「なるほど……」

私、愛瑠は谷川のメモ、成育歴を見ていた。

「数学が好き、か……」

でも、相手のことを私は全く「良い」とは思えない。自分とは真逆、数学オタク、論理オタクで陰キャ。コミュ力なし。こんな男子のどこが良いと言えるのだろう?

 ただ、ここで「良い所を認め合う」ことを心からしないと私はこの部屋から出られない。私は―、そのことを頭の片隅に置き成育歴とにらめっこする。

「質問があればどうぞ」

谷川がそう言う。

「その……、数学の、どんな所が好きなの?」

「それは書いてある成育歴を熟読すれば分かることです」

「はあ!!!」

コミュ力なんて何のその。私は珍しく、感情を露わにしてキレる。

「何でアンタにそんなこと言われないといけないの!?オタクの陰キャのくせに!」

そうすると谷川が最大級の怯えの表情で私を見た。おそらくコイツは人と、もっと言えば女子と話すことに慣れていないのだろう。

「すみません。人の感情を察することには慣れていないもので」

「まあ良いけど口のきき方には気をつけなさいよね!」

「はい……、ただね」

「ただ何よ?」

「私の中の女性のイメージは、もっと可愛らしくて微笑んでいるものだったのです」

「……何それ?キモっ!いつの時代生きてんのアンタ!」

すると谷川が反撃してくる。相手は俯き加減で話し、また部屋の照明の関係もあって谷川の表情はこちらからは読み取れなくなっている。きっとその方が相手は話しやすいのだろう。

「確かに私も時代錯誤かもしれませんが、あなたの『陰キャ』発言もいかがなものかと。それはある意味では男性差別に近い物と見受けられます」

 ちょっと前から気づいていたことだが、谷川は妙に理屈っぽい。これが数学をやっている人の話し方なのだろうか?聞いててイライラする。

「分かったそれは謝る。でもアンタから先に謝りなさい」

「もちろん謝罪はしますがあなたの方が先では?」

「うるさい!」

―イチイチイライラする奴だ谷川は。

「……それで、私の良い所、見つかった?」

「そうですね……偽りの感情を演じて苦労されているとしか今の所は言いようがありません」

「その言い方何とかならないの!?」

「私は生まれてこの方こう言う性分なのです」

「ああもうホントにウザい!」

これは平行線だ。対照的な二人を選んで苦しめて、「X」、とか言う人はさぞやご満悦だろう―。

「このままだと埒が明かないので……、成育歴に関してもう一度考えて質問し合いませんか?」

私は谷川の提案に頷いた。

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