第3話

 「あ、あの……」

すると、大学生らしき男子が話しかけてきた。ただその男子は黒ぶち眼鏡をかけていて、少し俯き加減。これはいわゆる「オタク」と言うヤツだろうか。もちろん最近はオタクの市民権が上がっていることは知っているけれど、少なくとも私の友達になるタイプではない。

「初めまして。と言うか今、どういう状況なんでしょう……?」

しかしそんなヤツにも私は自分の感情を偽って話してしまう。これは一種の「職業病」みたいなものだ。まだ学生なんだけど、まあそれは良しとしよう。

「私にも分からないんです。急に揺れが来たと思ったらこの有様で……」

そう相手がボソボソと話す。声がイチイチ聞き取りにくい。

「あっ、申し遅れました、私は谷川一誠(たにかわいっせい)と申します」

何だよそれ、できない営業マンかよ、と心の中で私は悪態をつく。ただしこんなヤツに本音を悟られるのも癪なので、

「こちらこそ初めまして。私は羽島愛瑠です。○○大学の学生です」

と努めて愛想よく返す。

「あっそれだと私と一緒ですね。学部はどこなのですか?」

「一応、教育学部ですが……」

「私は理学部数学科です」

どうりでコミュ力がなさそうに見えるわけだ。こいつは数学オタクなのだろうか?他にも気持ち悪い趣味がたくさんあるのだろうか?―まあどうでも良いけど。

 ってか私はここを出る。揺れも収まったようだしもう良いはず。と思って私が周りを見回したが―、出口のドアが、なくなっている。

「あの、ここドアなかったでしたっけ?」

そうコイツ、谷川一誠に言いながら私は探すが一周見回しても出入口が見つからない。照明のせいで見えない?いやでも今はそんなに暗くはない。だとするとこれは―、閉じ込められている状況?

「……よろしいでしょうか?」

 すると谷川が声をかけてきた。

「はい」

「私はここのカラオケハウスの前を通りかかった時、強い揺れを感じました。それで気づいたらこの部屋にいて、ドアが見当たりませんでした。どうしようか考えているとまた強い揺れが起き、羽島さんがここに来た、と言う次第です」

 なるほど谷川はカラオケをしに来たわけではないのか―まあオタク気質確定だし当たり前か、と一瞬思ったがそんなことはどうでも良い。

「ってことは私たち、もしかして……!」

「はい、ここに閉じ込められているようですね」

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