第16話 ファーストフード店

 私達は今、学校から十分程歩いたところにあるファーストフード店にいる。


 1-Fの教室を後にした私達四人は、そのまま駅近くにあるこのファストフード店を目指した。


「いらっしゃいませ。ご注文をお伺いします」


「えっと……Sサイズの烏龍茶一つで。夜輝は? 」


「あっ、ワターシは……チーズバーガーとチキンナゲット……あと、チョコパイとミックシェイクのバニラ味をお願いシマース! 」


「……どんだけ頼むのよ、あんた」


 私は小声で夜輝にツッコミを入れた。それに対して夜輝は、何故ツッコまれたのかわからないと言わんばかりのキョトンとした顔をしていた。


 そんな私達のやり取りを余所に、店員さんは確認の為に注文を繰り返す。


「合計で880円です」


 値段が告げられた。


 Sサイズの烏龍茶は100円なので、残りの780円分は夜輝が注文したものの値段であり、彼女が払うのが当たり前である。しかし、夜輝は今日財布を持て来ていないので、彼女の分も私が支払うことになった。


 




「晩御飯の時間も近いのに、そんなに頼んで大丈夫、夜輝さん? 」


 藤木が苦笑いをしながら夜輝に問う。


 それに対して夜輝は元気よくそれに答える。


「全然大丈夫デース! これくらいワターシにとっては朝飯前……いや、晩飯前デース! 」


 そう言って自慢げな顔で親指を立ててみせる夜輝。


「あんた、わかってる? 一応、ミス研として活動してる最中なんだからね? 」

 

 私は呆れ顔で彼女に言う。


「ミス研の活動なんて食べながらでもできるデース」


 それに素っ気なく夜輝が返し、彼女は手元のチーズバーガーに手を伸ばした。


「で、部長さん。ミス研の活動って具体的には何をするんだい? 」


 夜輝から私に視線を移しながら、藤木が問う。


「そういえば、さっきは読書会の途中だって言ってたよね? 何を読んでたの? 」


 私が藤木の問いに答える前に桐谷君が質問してきた。


「さっき読んでたのはシャーロックホームズの『緋色の研究』だよ……! 桐谷君は読んだことある……? 」


「うん。中学生の時に読んだよ。でも、途中から話のテイストが変わるから、若干ついて行けなかったけどね」


「私も……! 初めて読んだ時ちょっと困惑しちゃった……」


 私は笑みを溢しながら桐谷君に賛同する。その後、桐谷君から藤木の方へと視線を移し、彼にも『緋色の研究』を読んだことがあるかという質問をする。


「藤木は……たぶん読んだことないよね? 」


「なんか、優斗の時と質問の感じが違う気がすんだけど? 」


 藤木はムスッとしながら私に言う。


「まぁ、俺はミステリーに対して疎いけどさ。最初から読んでないと決めつけて質問するのは失礼なんじゃない? 」


 藤木はそう言って私を見やる。彼の言葉に一理あるなと思った私は、少し申し訳なさそうにしながら彼に謝罪する。


「確かにそうかも。ごめん、藤木。読んでないって決めつけて。じゃあ、藤木も『緋色の研究』読んだことあるんだ? 」


「いや、ないけど? 」


「……やっぱないんじゃん」


 今度は私がムスッとした顔になり、彼のことを睨んだ。


「まぁまぁ。二人共落ち着くデースヨ。今日はワターシの奢りデスカラ、喧嘩せず楽しむデース! 」


「いや、あんた一銭も持ってないでしょうが……」


 変なことを言った夜輝にすかさずツッコミを入れる。


 ……いや、飲み物買ったお釣りがあったか。


「そういえば、自販機でジュース買った時のお釣りは? 」


 思い出したついでに、彼女からお金を回収することにした。


 私は夜輝に向かって手のひらを差し出す。


「心配しなくてもちゃんとありマースヨ。綾はそんなにお金に困ってるデスカ? 」


「別に困ってないから! 私が欲しいんじゃなくて、鷲峰先生に返すのよ」


 鷲峰先生も70円のお釣りを返して欲しいとは思っていないだろうが、流石にお釣りまでもらうのはなんだか気が引ける。


 一応、明日返しに行ってみよう。


 夜輝はポケットから小銭を出すと、それを私の手のひらに置いた。


「……あれ? 」


 ……なんか、変だぞ?


 小銭を受け取った瞬間、私はとある違和感を覚えた。


「ん? どうしたの? 杉浦さん」


 向かいにいる桐谷君が不思議そうな顔で尋ねてくる。


「どうしたデスカ? 」


 夜輝も尋ねてきた。


 私は戸惑いながらその問いに答えた。


「いや、なんか……お釣り増えてない? 」

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