わたしはもう生身の人間ではなかった

数金都夢(Hugo)Kirara3500

わたしはもう生身の人間ではなかった。

 わたしはその日に放課後にいつもと同じように、無人運転のスクールバスに乗って家の向かいで降りた。交差点のスマート信号が歩行者側に変わっているのを確認し、横断歩道を渡ろうとした、そのときだった。


 突然、車道の先からスッと車が現れた。衝突回避AIが動作していなかった。それに気づいたときはもう間に合わず道路の反対側に飛ばされた。わたしは痛みを感じ、救急車のサイレンを聞いたような気がしたのだけど……。


 その後、目を覚ますと、わたしは見知らぬ部屋のベッドの上で横になっていた。そしてわたしの視界に、白衣の女性が笑顔で映り込んだ。

「メイヴさん、もう大丈夫だよ」

彼女はそう言った。そして、わたしはそのまま車に乗って目的地に着くと目の前でお姉ちゃんが待っていた。

「メイヴ!」

わたしは抱きしめられて、彼女の温かい感触と共に、ここが「現実」なのだと理解した。そして、この直後、わたしは衝撃の事実を知ることになった。その建物の中のとある部屋に入ると、パイプ椅子が並んでいて、奥には一部だけ開いている大きな箱があった。ママはそれを「保存カプセル」だと主張しているみたいだけど、どう見ても棺桶だった。そして中で横たわっていたのは、どう見てもわたしだった。それを見たわたしはその場でへたりこんだ。「こ、これはどういうことなの?」と、声にならない声でつぶやきながら。

 

 そしてわたしは胸がはち切れそうな思いでママに改めて聞き直した。「これってどういうことなの?」と。それでママはこう言った。

「メイヴはね、本当はもうね……。あの事故の後はもう脳神経を緊急スキャンしたデータをアンドロイドに書き込むことぐらいしかできなかったんだよ」

要するに、わたしは機械であってもう生身の人間ではなくなっていた。


 それからは夜になるとアンドロイド専用のワイヤレス充電できる枕を使って寝ないと落ち着かなくなっていた。もちろんそれは新しい生理的欲求の一つだった。そのかわりもう何かを口に入れて食べたいと思うこともなくなった。だけどわたしは以前とほとんど変わらない日常を送っている。見た目も、声も、まるで人間そのもので、学校では友人と笑い、家族と時間を過ごし、そして眠る。でもそれは電子部品を冷やすために一時的に電源を落としていると言ったほうが正しいのかもしれないけれど。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

わたしはもう生身の人間ではなかった 数金都夢(Hugo)Kirara3500 @kirara3500

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ