SS1:リナの受難と誤爆

 マソスさんと別れた後、私は一人、始まりの街の『冒険者ギルド出張所』に来ていました。

 あの人の隣に立つためには、私も強くならなきゃいけない。そのためには、効率よくレベルを上げないと。

 ソロでの狩りには限界を感じていた私は、パーティ募集の掲示板の前で意を決しました。


「魔法使い、レベル6、INT極振りです! 火力には自信があります! どなたかパーティに入れてくれませんか!」


 私の呼びかけに反応したのは、『鉄の牙』という即席パーティのリーダー、剣士の男の人でした。


「ほう、火力特化か。ちょうど殲滅力が欲しかったんだ。俺たちのパーティに入れよ」

「はい! よろしくお願いします!」


 タンク役の盾持ち、ヒーラーの神官、リーダーの剣士。

 そして魔法使いの私。 構成は完璧。

 これなら、強いモンスターも倒せるはず。 私は意気揚々と、彼らと共に森の奥へと向かいました。


 遭遇したのは『フォレスト・ベア』。初心者殺しと呼ばれる、タフで力の強い熊のモンスターです。


「盾、抑えろ! 神官は回復準備! 俺と魔法使いで削るぞ!」


「了解!」


 タンクの人が熊の攻撃を受け止め、その隙に剣士さんが斬りかかる。

 これぞMMOのパーティプレイ。私は後衛で杖を構え、詠唱を開始しました。


「シールド・バッシュ!」


 前衛のタンクの人が、大盾で熊の顔面を殴りつけ、その強烈なヘイトを一身に集めました。

 熊がタンクの人に釘付けになります。

 完璧なタイミング。タンクの人が、振り向かずに叫びました。


「よし、ヘイト固定した! 今だ、魔法使い! 最大火力をぶっ放せ!」


「はいっ! 任せてください!」


 指示通りの完璧なチャンス。 私は自信満々で、詠唱を開始しました。


「燃え上がれ! ――『ファイア・ボール』!」


 私の杖先に、バスケットボール大の火球が生成されます。

 狙うは、熊の背中。タンクの人がヘイトを稼いでくれている今がチャンスです。


「タイミングはばっちり!いっけぇぇぇッ!」


 私が火球を放った、まさにその瞬間でした。


「オラァッ! トドメはリーダーの俺様がもらうぜェェッ!」


 手柄を焦ったのか、リーダーの剣士さんが、予定外のタイミングで熊の背後


 ―――私の射線上に大きく飛び出したのです。


「えっ!?」


「あ?」


 私の放った火球と、飛び出した剣士さんの背中が、空中でニアミス――いや、直撃コース。


「ど、どいてくださ――」


 ドォォォォォォンッ!!


「ぎゃああああああああっ!?」


 着弾。爆発。

 フォレスト・ベアは黒焦げになって倒れました

 直撃はしなかったものの、リーダーの剣士さんも煙を上げて吹っ飛んでいました。


 ……。 …………。


 戦闘終了後。

 HPがレッドゾーンまで減り、アフロヘアのように髪がチリチリになった剣士さんが、鬼の形相で私に詰め寄ってきました。


「てめぇぇぇっ!! 何考えてやがる!!」

「ご、ごめんなさい! でも、急に射線に入ってくるから……!」

「あ? 前衛が動くのは当たり前だろうが! 後衛なら味方の動きを見て撃てよ! PKする気か!」

「で、でも、私、詠唱しちゃったら止められなくて……」

「言い訳すんな! こんな『歩く爆弾』と組めるか! 解散だ、解散!」


 タンクの人も気まずそうに目を逸らし、私を庇ってはくれませんでした。


「ええっ……」


 結局、その一度の戦闘だけでパーティは解散。

 私は「味方を巻き込む危険な魔法使い」という不名誉なレッテルを貼られ、その場に取り残されてしまいました。


「うぅ……ひどい……」


 とぼとぼと街へ戻る道すがら、私はあの日、マソスさんと戦った時のことを思い出していました。

 あの時、マソスさんは私の魔法の軌道を読んで、自分から射線を空けてくれた。

 私が撃ちやすいように、敵を誘導してくれた。


「戦いやすかったな………」


 普通のプレイヤーは、自分の動きで精一杯。

 私の火力を活かしてくれる人なんて、そうそういない。

 私は改めて、あの「縛りプレイ」の剣士の凄さを思い知りました。


「強くならなきゃ。一人でも戦えるように……もっと、もっと火力を上げて、敵が近づく前に倒しきれるくらいに!」


 パーティを追放された悔しさと、マソスさんへの憧れ。

 それが、私のステータス振りを、さらに極端な『INT全振り』へと加速させていくことになるのでした。

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