第12話

「海っ! 到着だぜ~~っ!!」


 休日、俺と晃輝は電車を乗り継ぎ、海へとやってきていた。

 晃輝は眼前に広がる大海原に目を輝かせ、飛び跳ね、リュックの中をガシャガシャと鳴らしている。


「なぁなぁ望! 早くお魚さんめっちゃ釣ろうぜ!」

「はいはい、そんじゃあ堤防の方行くぞ」

「おう! ひゃっほ~い!!」


 潮風が肌を撫で、陽光が目に差し込む。少し歩き、堤防へと到着した。

 人はそれほどいないし、これなら気ままにできそうだ。


「んじゃ、仕掛け作っとくから砂浜で遊んできていいぞ」

「え~~!? 行くなら望も一緒に行こうぜ? 俺仕掛けできねぇから、隣で般若心経歌ってやんよ!」

「なんでだよ!? せめて面白い話とかにしろ!」

「オーケー!」


 釣りの仕掛け。

 主に釣り竿に針や糸、オモリをつけることだ。特に釣り針の結び方は難しいだろうから、今回は俺がやることにしている。


 二本の釣り竿に仕掛けをつけ終え、一本を晃輝に渡した。


「餌は自分でつけろよな」

「……うげ、うねうねしてて気持ち悪ぃよぉ~! キャーーッ!? 望つけて~〜!!」

「女の子みたいな反応すんな! そして甘えるんじゃねぇ!!」

「ひぃん!!」


 餌はゴカイ。ひだが付いたミミズみたいなやつだ。

 餌も付けてやっていたら流石におんぶに抱っこすぎるので、心を鬼にする。


 左でひーひーしている晃輝を一瞥した後、持ってきた簡易的な折り畳み椅子に腰を掛け、海面に釣り糸を垂らした。


「なーなー、釣りってもっとブオンッ! ってぶん投げてするもんじゃねぇの?」

「それでもいいけど、初めは根魚狙いでいいと思う」

「ネザカナ? ホワッツ?」

「海底の岩の隙間とかにいる魚だ。初心者はまずそれで釣る感覚に慣れてくのがいいぞ」

「わかった! おっしゃ、釣るぜ~!」


 ようやく餌との格闘を終えた晃輝が、俺と同じように釣り糸を垂らす。


 耳の中で木霊する漣、鼻腔を擽る潮の香り、見上げれば電線のない澄み切った青空……。

 正直魚が釣れなくても、この雰囲気を堪能できるのが釣りのいいところだと、俺は個人的に思っている。


 そんなことを思っていると、俺の釣り竿が不自然に動く。


「ん? これは……」


 リールを巻くと、俺の右で釣りをしていたおじいさんも首をかしげてリールを巻いていた。

 海面から上がったものを見てみると、おじいさんの糸と絡まってしまっている。


「あ、すみません! おまつりしちゃって……」


 〝おまつり〟というのは、他の釣り人の糸と絡まってしまうトラブルのことだ。

 気を付ければしなかっただろうが、俺がぼーっとしすぎたせいかもしれない。


「フンッ、まあ大丈夫だぞ。して、友人と釣りか? あまり迷惑な行為はせんようにしてくれ。儂が会った若いもんにはあまりいい思い出がありゃせんからな」

「わかりました。ところで、何かいいの釣れましたか?」

「いいや、まだまだ。精々大きめのメジナくらいだな」


 グレー色の髪をしたおじいさんで、どこかムスッとした表情をしている。

 釣り糸を一緒に解きながら、そのおじいさんと談笑を始めた。


「お前さん、高校生か?」

「はい、今は高校二年生です!」

「孫娘と同い年か。いいなぁ、あの子は釣りとかあんま来てくれんし……」

「まあ、魚が釣れないとつまんないっていう人もいますからねぇ」

「しかもここは一メートルくらいのサメが出たって話を聞くからなぁ」

「マジですか!? 一回でいいから釣ってみたいなぁ」


 ようやく絡まった糸がほどけ、再び糸を垂らしてぼーっとしようとする。

 すると、隣のおじいさんがペラっと服をめくり、ズボンのベルトを通すところについている何かを俺に見せてきた。


「これ、儂の孫娘からもらったんだ。いいだろう」

「それは……魚のキーホルダーですか? 可愛いですね」


 どこか不格好な魚だが、小学生の時にでも作ったものなのだろうか?

 それを自慢する彼の顔はとても嬉しそうで、こちらもつられて笑う。


「昔はたくさん儂に贈り物をしてくれてたんだが、最近はめっきりでな」

「確かに、俺も昔はなんでもない日に贈り物してたけど、最近はないかもですね」

「孫娘は学校ではどうやら……えす、えすきゅう、びしょうじょ? ……まぁよくわからんが、えすで人気なんだ」

「ど、ドSで人気!? そうなんですね……。孫娘さんは随分と特殊な進化されたようで」


 うちの高校には難攻不落のS級美少女がいるが、このお方の孫娘さんはドSなようだ。

 ふと、俺がそういえばと呟いて、おじいさんに尋ねる。


「えーっと。すみません、あなたのお名前は?」

「儂は青天目なばため俊三としぞうだ。それほど馴れ合う気などないから忘れても構わんさ」

「俺は渡来望です。忘れませんよ、俊三さん」

「望か、良い名だな」


 このまま隣のおじいさん、もとい俊三さんと話しつつ、悪戦苦闘する晃輝とまったり釣りを楽しむつもりだった。

 だがしかし、そんな平穏は一瞬にして崩壊してしまう。


「――ねぇねぇ~、こんなところでほんとに釣れるの~?」

「知らねぇよ。でも釣れなかったら貰えばよくね?w」

「あはっ! 確かに~♡」


 海水浴でもしに来たのかと思う服装できた夫婦と思われる二人の雰囲気は、甘ったるすぎて胸やけがしそうなほどだった。

 この場で釣りをしている人もそれを感じ取っており、稀有なものを見るようにちらちらと彼らを見ている。


(あれこそが俊三さんが嫌いそうな若者じゃねぇか! い、いや……まだ見た目で判断するのは良くないぞ望! 見極めるんだ……!!)


 だとしても、ああいう系は苦手だからなるべく俺たちに関わってきてほしくないものだ。

 そう心の中で呟いてしまったからなのか、それがフラグとなってしまうのだった……。

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