今宵、月下美人の隣で。

昼月キオリ

今宵、月下美人の隣で。


人物紹介。

翔子(しょうこ)(60)

篤志(あつし)(60)



去年亡くなった妻は酒が好きだった。

その日の夜は月下美人が咲いていた。


秋の夜。三日月が見える。

俺は縁側に座り、とっくりとおちょこを二つ置いた。

時折こうして晩酌をすることが増えた。


リーン、リーン。リン、リン。

鈴虫が鳴いている。


すぐ隣には鉢に植えられた月下美人が咲いていて

月明かりに照らされ花びら一枚一枚が透き通って輝いている。


「綺麗だなぁ・・・」


そうポツリと呟いた後、酒を注ごうとしたその時だった。

月の光が強くなり、手元を照らした。

 

ぱっと空を見上げた。


すると弧を描いた月から透明な何かがこちらに向かって降り注いできた。


着地点はとっくりだ。

まるで吸い込まれるようにとっくりに収まったそれは温かみを帯びていたが持てないほどではなかった。


「何だこれは?・・・」


恐る恐る匂いを嗅いでみるとお酒の匂いが漂ってきた。


それを二つのおちょこに注ぎ、一口飲んでみる。


「ほっこりするなぁ」


夜空には欠けた月。

酒のおかげか心はホカホカと温かい。

月下美人はまるで篤志に寄り添うように咲いていた。

 


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今宵、月下美人の隣で。 昼月キオリ @bluepiece221b

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