僕が選ばれた理由
「今日はこの辺で終わりにしようか。」
部長が指を指した方向を見ると、壁掛け時計がすでに19時を過ぎていた。そうか、もうそんな時間か。
まだまだ分からないことだらけだが、明日で事件の真相にたどり着けるのだろうか。僕が神妙な面持ちでノートPCを眺めていると部長が立ち上がり皆に声をかけた。
「みんな気を付けて帰ってくれ。あと、佐藤君は少し残っていてくれないか?」
「え?・・・分かりました」
皆が帰り支度をする中、僕は椅子に座って今日の出来事を振り返った。いきなり倒れている女子生徒を見たときは本当に驚いたな。あの光景はこの先の人生で忘れることはないと思う。
「・・じゃあ、しーちゃんも佐藤君も気を付けてね」
「じゃ。先に帰るわね」
「二人ともお先にー」
皆が教室を後にし、僕と部長の二人っきりだ。これから何が起こるのかと緊張していると、部長は自分の棚からカバンを取り出しそれを肩にかけた。
「じゃあ。我々も帰ろうか」
「え?残っていた理由ってこれですか?」
「ああ。少し君と話がしたくてね。君も電車通学だろう?」
「・・分かりました」
何で知っているんだ。という疑問を飲み込みつつ、僕も自分のカバンを肩にかけ部長と一緒に教室を出た。
そのまま校舎の外に出ると、辺りはすっかり暗くなっており月が綺麗に輝いていた。月と一緒に隣の部長を見ると昼間見た時よりも妖艶さが増して目を奪われそうだ。
「今日はすまないね。私を見たときはさぞ驚いただろう?」
「そりゃそうですよ。いきなり死体を見せられて驚かない人なんていないですよ」
「・・まあ。普通はそうだね」
部長は一瞬口ごもった後、そのまま会話を続けた。
「学校生活はどうだい?楽しいかい?」
「まあまあですね。想像していたより期待はずれって感じです。」
僕も例に漏れずにバラ色の高校生活というものを夢みていたが実際にはそんなものはなくただの中学校の延長線上でしかなかった。それもこれも部活にも入らず、女子とも積極的に関わろうとしない自分が悪いのだが。
それは生徒会長として申し訳ないねと部長は苦笑した。そしてしばらく雑談した後、僕の両親について話すことになった。
「ところで君の両親はどんな人なんだい?」
「そうですね。いたって普通ですよ。サラリーマンの父に専業主婦の母がいて。うちは一人っ子なので経済的にも余裕があるのでそこそこ良いくらしをさせてもらってます。一つあるとすれば母の手料理は友人には不評なんですよね。変な味がするとかで。あんなにおいしいのに」
「料理が?・・それはぜひごちそうになりたいな」
「いいですよ!今度母に言っておきます!」
なんだか部長はおいしいと言ってくれそうなのでぜひとも食べさせたい。今まで母の料理を批判されて思うところはあったのでこの機会はとてもうれしい。
そうだ。僕からも聞きたいことがあったんだ。
「そうだ。僕からも聞きたいことがあったんですよ。何で僕だったんですか?」
「何のこと?」
「入部テストのことですよ。」
「あれは岸先生に頼んでクラスにミステリーが好きそうな人がいたら連れてきてほしいと頼んだだけだよ」
部長はこちらを見ずにまっすぐに駅へと向かう。だがこれは今日中に聞いておかないと。僕が歩みを止めると部長も立ち止まり振り返る。
「それは嘘ですよね?」
「・・・どうして?」
「入部テストにしては大がかりすぎる。新入生の入部テストのために毎回教室を汚して掃除しているとは考えずらい。それにリスクもある」
「リスク?」
「当然、他の人が入ってくるリスクです。部長が死体になっているうちにもし先生がきたら当然大騒ぎになります。今後、探偵部は部として認められないことになるかもしれない。それは避けたいはずです。」
「だがまだ初回だ。そのリスクを負って決行した可能性もあるだろう?」
「確かにその可能性もあります。ですが一番の決め手は別にあります。自己紹介のときです。」
「自己紹介?」
部長はわざとらしく首を傾げた。
「はい。部長は僕の身長、体重、血液型まで知っていた。でもそれは友人には言ったことがない。つまり部長は僕が学校で実施された最初の健康診断の結果を入手したことになります。いくら生徒会長でも生徒の健康診断の結果は見れないはずです。」
部長は何らかの方法で僕の健康診断の結果を不正に入手したのだ。新入生を勧誘する度に生徒の健康診断の結果を手に入れるとは考えにくい。
「部長。僕の健康診断の結果をどうやって入手したんですか?」
少しの沈黙の後、参ったとばかりに部長は両手を上げた。
「そうか。健康診断の結果は友人と共有するものだと思っていたが。君はそうか・・友人が・・」
「いますよ!たまたま話して無かっただけです!」
部長はひとしきり笑った後に僕に向かって頭を下げた。
「すまない。君の個人情報を勝手に閲覧してしまった。ここに正式にお詫び申し上げる。」
突然の謝罪に慌てながら上擦った声で顔を上げてくださいと部長に言った。部長は顔を上げるとほっとした顔で胸をなで下ろしていた。
「でもなんで僕なんですか?そこまでして僕を入部させたい理由ってなんですか?」
「それは・・・君が入部テストに合格して晴れて探偵部になってから教えてあげよう」
「えー。ずるいですよ。」
僕の声が夜の街に響いた。
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