森山先輩とギャルと岸先生

三人は教室に入ると、ドアの前で横並びになった。


二人の生徒は両方とも女性で上履きの色から一人は一年生でもう一人は二年生であると分かった。二年生のほうは当然だが顔も見たことないし、名前も分からない。一年生のほうも同じクラスではないので全く知らない。


その隣には申し訳さそうにこちらを見つめている女性教師の姿があった。


「岸先生。これはどういう事なんですか?」


僕が不満そうに尋ねると、岸先生は僕がここまで持ってきた小テストで顔を隠した。さっき教室に入るときに拾っていた。


「い、いやー。これはその。神崎にミステリーが好きそうで暇そう・・じゃなかった。名探偵になれそうな人はいないかと言われて・・」


小テストで顔を隠しながら目でこちらをちらちらと確認している。


やはり岸先生が一枚嚙んでいたようだ。確かに僕はミステリーが好きで暇ではあるが、他人から言われるのは釈然としない。


先ほどの茶番は探偵部を新入生に興味を持ってもらうための出し物?のようなものだったみたいだ。


それにしても普段の様子とはまるで違う。普段の岸先生は厳格で他人を寄せ付けない雰囲気を醸し出している。おまけに目が怖い。


そしてその雰囲気に似合わない巨乳さから男子からは裏でSM嬢と呼ばれていた。僕も心の中で呼んでいたことは秘密にしよう。


薄い茶色に染めている長い髪の毛を後ろでまとめるのが岸先生のいつものスタイルだが、今は髪をそのまま下ろしている。


「あの岸先生。普段と様子違くないですか?」


「こ、これは・・その・・普段は気合を入れているといいますか。初めてクラスの担任を請け負ったときに生徒達からものすごくなめられていたことがあって。まったく言う事を聞かなくて困ったので、次からは厳しくやろうと思って・・」


どんどん小さくなる声に合わせて見えている顔の面積も減っていく。

なるほど。先生も苦労しているようだ。

そういえば先生も今年からこの学校に赴任したらしい。キャラを変えるいい機会だったのだろう。


「なるほど。了解です。」


僕は教師という過酷な職業と向き合っている先生に敬意をこめて敬礼した。


「ちょっと。いつまで話してんの?」


真ん中に立っている女子生徒がいらいらした様子で僕に話しかけてきた。


手首にシュシュをつけ、ピンクのネイルは驚くほど長い。髪の毛はピンクのインナーカラーで金髪にところどころピンク色の髪が混じっている。


身長は155cmくらいで、彼女を一言で表すならギャルという言葉が最適だろう。


「すみません。佐藤奏といいます。よろしくお願いします。」


僕は彼女に向かって頭を下げたが、まるで興味ないようだ。


「いいよ、自己紹介なんて。栞は部に入れたいみたいだけど私は反対。それに入部テストに受かるとも思えないし」


彼女はとげとげしい態度でそう言った。どうやら彼女は僕が探偵部に入るのが嫌らしい。僕自身も自ら入りたいと思ってここに来たわけではないのだけれど。この人と仲良くなるにはコスメだとかネイルだとかを勉強しないと会話にならなそうだ。


すると、三人目の女子生徒が僕に歩み寄って来て握手を求めた。


「初めまして。私は森山薫。よろしく少年。」


「こちらこそよろしくお願いします。」


少年?と疑問に思ったが僕も右手を差し出して握手を交わした


僕が彼女に抱いた第一印象は可愛いだ。


身長は150cmあるかないかくらいで、茶色のショートヘア。いわゆるボブという髪型だ。肌は白く、西洋の血が混じっているようで瞳が少し赤い。


まるで小動物のような可愛さがあるが、どこか大人な雰囲気を纏っていた。


僕と彼女が握手するのを見ていたギャル(仮)がすかさず口を出す。


「ちょっと!なに仲良くしてんのよ!」


ギャルは森山さんを抱きかかえると、鋭い眼光で僕を睨みつけた。さながらわが子を守る母猫のようだ。森山さんはそのままの態勢で彼女に喋りかける。


「千歳も仲良くしておいたほういいよ。彼とは長い付き合いになりそうだからね。」


「なんでわかるのよ」


「彼を見たまえ、いかにもワトソンって感じがしないかい?」


「・・・たしかにめっちゃする。めっちゃパシられてそう」


二人のやり取りを見ていた生徒会長と先生はクスクスと笑った。


誰がワトソンだ。誰がパシリだ。


僕は顔をしかめて心の中で反論した。




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