通学路に放置された挽き肉の話など
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通学路に放置された挽き肉の話
私の知人にNさんというT県出身の人物がいる。Nさんが小学生の頃、通学路に剥き出しの挽き肉が落ちていたことがあったらしい。頻度は一ヶ月に数度、落ちていた場所はバラバラだったという。
Nさんも目撃したことがあり、はじめは動物の死体かと思ってぎょっとしたそうだ。初夏だったこともあり、肉は傷んで黒ずみ、酸っぱいような変な臭いがしたそうだ。
一見ただの食品廃棄のようだが、妙だったのはいつも挽き肉がひと握り分ほどにきれいにまとまって落ちていたことだった。雨の日にも関わらず、泥もついていない肉がぽつりと置かれたように存在していたという噂があった。派手なネックレスやタバコが一緒に落ちていたという話も聞いたという。
そのうち学校からも注意喚起があったそうだ。不審な物には近寄らないよう、学校だよりにも書かれていたし、ホームルームで神経質な眼鏡の担任が念を押していたそうだ。回覧板でも「挽き肉が放置される迷惑行為について心当たりがある人は町内会に連絡するように」と案内があり、学校だけでなく地域でも知られる事件になっていたそうだ。
ところが不思議なことに、誰かが片づける場面を見たという話は一度も聞かなかった。朝には確かにあったはずの挽き肉が、放課後には跡形もなく消えているのだ。汚れも臭いも残らず、まるで最初から存在しなかったかのように。
Nさんは学校に行っている間に大人が片付けていると思っていたそうだ。しかし、ある日の下校中、それが間違いであることを知ったという。学校で友達と遊び、日が傾いてきた午後五時頃、中学生くらいの男の子が道端でしゃがんでいたらしい。具合が悪いのかと思って近づくと、クチャクチャと音がする。
男の子の口元は真っ赤に濡れ、手には例の挽き肉が握られていたという。驚いて立ち尽くすNさんと視線が合うと、少年はぎこちなく笑い、まるで秘密を共有するように唇へ指を当てたそうだ。
彼の顔は担任と同じ顔だった。印刷して貼り付けたような血の気のないセラミックのような顔。そのとき、女の怒鳴るような声がしたそうだ。本能的に振り向いてはいけないと思い、不気味な少年の脇を抜けて走り出したらしい。十字路に差し掛かると、今度は右から妙に甲高く女の声が聞こえた。
夢中で声と反対の方向に走り、また声が聞こえたら逆に走り、何度も繰り返してやっと家の近くにたどり着いたそうだ。家に駆け込み、カーテンの隙間から窓の外を窺うと、茶髪で派手な服装の女の人が両手でクッキーの箱のようなものを持って歩いていたらしい。蓋は開いていて、はっきりとは見えなかったが、暗いピンク色のものがぎっしり詰まっていたように見えた。たぶん見間違えか思い込みだと思うが、あれが挽き肉だったとしたらぞっとする、とNさんは言っていた。
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