第29話 やるべきことから目を背けるプレイヤーに、最高のパフォーマンスができるはずがない
このクラスを担任する、熱血アラサー体育教師だ。学校ではいつもジャージ姿だが、今日は始業式があるため、ビシッとスーツを着ている。
「夏休み前にも話したが、高校受験において最も差がつくのが高校2年だ。受験生が勉強するのは当たり前。今努力できるか否かが、1年後、大きな差になって現れるんだ。わかるな?」
生徒一人一人の目を見ながら、小泉先生は熱く言葉を投げかける。
ちなみに小泉先生はバスケ部OBで、インターハイ出場経験もあるらしい。現在は顧問を務めているため、HRの際は中村の背筋がいつも伸びている。
「特に部活生! 『3年になったら頑張る』『受験生になったら本気出す』等々、ふざけたことを抜かす生徒もいるが……私に言わせれば、やるべきことから目を背けるプレイヤーに、最高のパフォーマンスができるはずがない。まさかいないとは思うが、部活を言い訳にして宿題すらやって来ないなど論外だ」
俺の隣に座る
「よし、受験の話はここまで。──そしてもう一つ! 文武両道を謳うわが校にとって、来月は学園祭と並ぶ重要なイベント、スポーツフェスティバルが控えている!!!」
小泉先生の声に一段と力が入った。
……THE・体育会系である担任がノリノリなのはわかるけど、学園祭と並ぶイベントはさすがに言いすぎだと思う。よほど熱心なクラス以外、練習するのは体育の時間くらいだし。
「今朝はその実行委員を選出する。各クラス一名、スポフェスの運営に関わる重要な仕事だ。やってくれる者はいるか?」
シーンと静まる教室。
人の悪口はあんなに盛り上がるのに、こういう時は大人しい。クラス委員もじゃんけんで決まってたし。ちょっと嫌な感じだ。
「(頼む天宮。実行委員、やってくれ)」
そんな中。なぜか中村がひそひそ俺に囁いた。
「(なんでだよ)」
「(……この流れだと、最終的に俺が顧問に指名される)」
「(あぁー)」
部活の顧問が担任だとありがちな悲劇。日直が休んだりすると、代わりに指名されるのはいつも中村だもんな。このまま実行委員を任されてもおかしくない、可哀そうに。
とはいえ、俺も夏休み、海原さんに実行委員長を頼まれている。決してやりたくはないものの、それはみんな同じだし、帰宅部が引き受ける方が都合も良いだろう。
そうして俺が右手を挙げようとした、その時だった。
「……はい」
細く小さな声が静寂に浮かび、クラスの視線が一点に集まる。
その声の主は、クラス、いや学年一寡黙な少女──涼川深冬であった。
「おぉ深冬! やるきだな!!! 先生は嬉しいぞ」
「……よろしく……お願いします」
嬉々とした表情の担任とは対照的に、深冬の表情は少しも変わらず、ただ小さくお辞儀をするだけ。深冬がこういうのに立候補するなんて、珍しいな。
「他にいないなら、実行委員は深冬に──」
「私もやります」
小泉先生の言葉を遮り、真夏もさっと手を挙げた。
「真夏もだな」
「はい、お願いします」
「わかった。他にやりたい者はいないか?」
どこからも反応がない。
実行委員回避がほぼ確定したことで、教室にはどこか安堵の空気が流れていた。
「残念だが、実行委員は各クラス一人までと決まっている。本来は話し合いで決めるべきところだが……すまない真夏。先生は今回、深冬に任せたい」
「えっ? で、でも──」
「深冬が勇気を出して立候補してくれた、その覚悟を尊重させて欲しいんだ」
「……わかりました」
「ありがとう。それではみんな拍手」
小泉先生の呼びかけに、パラパラと拍手が鳴る。
……まぁ、担任の気持ちもわかる。授業中でさえ中々挙手しない生徒が、実行委員に立候補だもんな。そりゃ教師なら、任せてみたくもなるだろう。
だけど──そんな深冬を真夏だけは、心配そうに見つめていた。
高嶺の花の双子姉妹は、俺の”初めて”が欲しいらしい 薬味たひち @yakumitahichi
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