幕間 ……私はお姉ちゃんも……大好きだから

 天宮と別れてから、暗い道を急ぎ足で2分ほど歩くと、すぐに家の明かりが見えてきた。

 チャイムを鳴らすには時間が遅いので、私は2階にいる妹にLINEを送る。


『ふゆ起きてる? 鍵を開けて欲しいの』

『わかった』


 すると妹は5秒くらいで降りてきて、かちゃりとドアを開けてくれた。


「……おかえり……お姉ちゃん……遅かったね」

「うん、ちょっと盛り上がっちゃった。ママは?」

「……まだ……帰ってない」

「あー、今日も残業かー」

「……繁忙期だから……仕方ない」


 うちはパパが海外に単身赴任していて、1年の大半は女3人暮らし。でもママもバリバリの仕事人間だから、姉妹だけで過ごす夜も少なくない。

 小学生の時は寂しかったけど、今ではもう慣れっこだ。


「……お姉ちゃん……お茶……淹れたよ」

「ありがと、ふゆ」


 夜風で冷えた身体に、温かいお茶がよく染みる。

 正面に座るふゆはいつものように、愛用しているタコ柄のマグカップでコーヒーを飲みながら、いかにも難しそうな本を読んでいる。


「……お姉ちゃん……星波との映画……楽しかった?」


 本に視線を向けたまま、か細い声でふゆは言った。


「うん! すっっっごく良い映画だった」

「……そっか」


 ふゆは音を立てずにコーヒーを飲み干し、それを再びテーブルに置く。


「……ねぇ……お姉ちゃん……聞いていい?」

「うん、どうしたの?」

「……星波のこと……好き?」


 もうふゆは本も閉じていて、不安げな瞳で私を見つめていた。


「な、何を言ってるのふゆ? ただの友だちに決まってるじゃない」

「……でも……今のお姉ちゃん……すごく……幸せそう」

「それは……友だちと好きな映画を観たら、誰だって楽しいでしょ」


 そう、天宮星波はただのオタク友だち。この先何があっても、それ以上を求めることも、求められることもない。

 だって──ふゆがずっと好きだった人だもん。


「……いいんだよ……私のことは……気にしないで」

「気にしないでって、なんのこと?」

「……お姉ちゃんが……星那を好きなら……私はそれで……構わない」


 そう言って、ふゆは空になったマグカップと本を持ち、静かに立ち上がる。


「ちょっと待って、ふゆ」

「……何……お姉ちゃん」

「本気なの? だって小学生の頃から、ふゆは天宮のことをずっと──」

「……星波と同じくらい……私はお姉ちゃんも……大好きだから」


 姉の私でなければ、気づけなかったと思う。

 ──それは、いつも無表情な妹の、小さな小さな笑顔だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る