第2話 四葉に憧れて

これは、『幸運を運ぶ四葉のクローバー』という本の中身を要約したもの。

僕・角野すみの三ツ葉は本を胸に抱えた。

これは、僕が小さい頃から大好きな本。

そして、両親からの最後のプレゼントだ。


僕の両親は、母さんは死に、父さんは仕事が忙しくて別の場所で暮らしている。

別に、学園には通えているし、食事も問題ないからいい。

この前はメッセージで、『来美希くみきくんと仲良くしろよ』ときていたから、多分元気だ。

来美希…というのは、僕の幼馴染。

容姿端麗、文武両道、誰にでも優しい。

僕がそこらに生えている三葉だとしたら、彼は四葉のクローバー。

そんな彼とは、小学3年生になって、お互いに避けるようになった。

僕は平凡。真ん中くらいの身長も、重くもない軽くもない体重も、パッとしない見た目も。

テストも全校生徒が100人なら五十位くらい。

運動も1〜10でいったら5くらい。

僕らが通うのは月野元学園。

僕のクラスメイトは四葉のクローバーだらけだ。

そんな天才様たちが、僕に目を向けるはずがない。

を持つ僕が、人と向き合える訳がない。

「行ってきます」

だれもいない空間に向かって呟く。

襟を正して、髪を編み込んで、鞄を持つ。

大丈夫。僕は一人。

そう唱えながら、家の鍵を閉めた。


豪華な赤煉瓦の門をくぐる。

たくさんの生徒が、笑顔で挨拶を交わしているなか、僕は一人で無表情で門をくぐった。

ガラス製の階段を上がる。

2ーA。このクラスだ。

扉を開けると、たくさんのキラキラした人たちが話していた。

「おはよー」「ねえねえ、今日朝さ、来美希様見ちゃった」「おっはー」「この問題わかる?」「昨日の四ツ葉の配信見た?」

たくさんの話し声。

僕はそれを避けて自身の席に座った。

前髪を下ろして、俯いて、関わらないでくださいという雰囲気を出す。

誰とも関わりたくないから。

僕は三葉。四葉のクローバーにはなれない。

それなら、四葉のクローバーを汚さないように…汚さないように…空気になるのが役目。

「三ツ葉さん」

「っ!」

誰かに名前を呼ばれて、思わず肩をびくっと揺らした。

そこには、金色の綺麗な髪をポニーテールにし、キラキラとした瞳を持つクラスメイト・ふわさんがいた。

「この後全校集会だよ!一緒に行こ!」

「いえっ…。僕は…お手洗いに寄ってから行きますので…先に行っていてください…」

嘘だ。こんなもの、サボるつもりだ。

だが、ふわさんは引かなかった。

「えー。待ってるから、一緒にいこーよ!」

「…いえ…僕は…その…えっと…水も買いたいので…本当に!きにしなくてだいじょうぶですから!」

「でも…」「ふわー!来美希さまが早く来いって!」

「ちっ…はえーよあのやろ…間に合うわけねーだろ」

「?」

今、なんて言った?周りがうるさくて聞こえなかった。

「あーもう!仕方ない!じゃあ、三ツ葉さん!きてよね!」

「…」

あえて否定も肯定もしない。

「ふわー!早く来いって!」

「あーっわーったよ!」

ふわさんはそのまま走って行った。

僕はトイレに駆け込むために教室を出る。

だが、その前に腕を掴まれた。

「行くよっ!」

「ふわさんっ?なんでここに…」

「どーせ来ないだろって思ったから。行くよっ!いつもきてないんだから!」

「えっ、あの、その、うわぁぁぁぁっ!」

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