男扱いされている女子、俺の前では可愛い女の子

ときたま@黒聖女様

第1話

 休み時間中、ラノベを読んでいた俺の背中に衝撃が走った。何かが勢いよくぶつかった感覚に何事だとラノベを閉じて振り返る。

 それと同時に声がした。


「ご、ごめんね、東野ひがしのくん」

「……ああ、西宮にしみやか」


 俺にぶつかってきたのはクラスメイトの女子だった。名前は西宮日向ひなた。身長がクラスの中で一番高く、よく男子扱いをされている女子だ。

 西宮は両手を合わせて申し訳なさそうに目を閉じている。


「何してるんだよ、西宮〜」

「ほんとほんと。軽く叩いただけなのに大袈裟」

「悪いな〜東野。西宮がオーバーなリアクションしてさ〜」


 西宮の後ろでは同じくクラスメイトの男子が悪気もなさそうに何か言っていた。察するにアイツらと雑談していた西宮がツッコミかなんかで押されて俺の方に突っ込んできた、ってところだろう。新手のいじめとかじゃなくて良かった。


「……オーバーなリアクション、じゃないんだけどな」


 誰にも聞こえないような小さい声でボソッと西宮が漏らした。

 それから、すぐに俺の目を見る。


「だ、大丈夫だった? どこも怪我してない?」


 俺に怪我でもさせたと思っているのか不安そうに瞳を揺らす西宮。そんな西宮から顔を背けながら俺は素っ気なく答えた。


「問題ないから気にしなくていい」


 短くそれだけ答えて読書の世界に戻る。


「で、でも――」

「――お~い、西宮ー。早く戻って来いよー」

「う、うん……本当にごめんね」


 あんまり気にされるのも面倒で頷いて返事だけしておく。西宮はまだ何か言いたそうにしているように感じたが俺の対応で去って行った。




 放課後になり、帰る用意を済ませた俺はさっさと教室を出た。家に帰っても特に用事はない。けど、学校に残っていてもすることがない。それなら、家に帰ってダラダラ過ごす方が体を休められるし、よっぽど有意義だ。

 なんて、理屈付けてみたけど単に遊ぶ友達がいないだけのボッチの言い分だったりする。はは、笑えねー。


「あ、ひ、東野くん」

「ん?」


 靴を履き替えようと向かった先の昇降口で俺を呼ぶ声がした。周囲を探せば西宮が俺を手招きしている。

 え、何の用だ?

 西宮はまだ靴を履き替えずに通路から外れた場所で陰に隠れるようにしている。呼び出される用が思い当たらないけど、ひとまず西宮のところに向かうことにした。


「どうした?」

「その……今日のこと、もう一回ちゃんと謝りたくて」

「今日のこと……ああ、休み時間のことか」


 どうやら、西宮は休み時間に俺にぶつかったことを気にしているらしい。怪我もしてないし、ラノベが折れたりもしてなかったらすっかり忘れてた。何より俺の中では終わった話だし。


「あの時も言ったけど、本当に気にしなくていい」

「そういう訳にはいかないよ。東野くん怒ってるだろうし」

「いきなりぶつかられて驚いたけど、怒ってたりはしてない」


 これでもし、西宮にぶつかられたことが原因でラノベが折れたり破れたりしていたら弁償の一つでもしてもらっていたかもしれない。けど、今回に限っては俺もラノベも無事だ。つまり、怒る要素が俺にはない。


「……でも、東野くん素っ気なかったし」

「それはだな……と、とにかく。ほんとのほんとーに西宮に怒ったりしてないから。西宮だってわざとぶつかってきたんじゃないんだろ?」

「そんなことしないよ」

「だろ。つまり、あれは事故だ。偶然ぶつかっただけのことだから、怒る要素がない。ってことで、もう西宮も忘れろ。じゃ」


 西宮は俺が素っ気ないことを気にしていた。にも関わらず、またも俺は素っ気ない態度で口早に告げる。

 俺が西宮に素っ気ない態度を取るのには理由がある。それは、ぶつかられて怒ってるからとか西宮のことが嫌いだからとかではない。ただ、口に出すのは恥ずかしくて急いでこの場を去ろうとした。


 しかし、西宮が俺の手を掴んだことによって逃走は阻止された。俺は急に手を掴まれたことに驚いてやや強めに払い除けるようにして自分の手を引っ込めた。

 逆に西宮は俺の過剰な反応に驚いている。

 それから、落ち込んだように目を伏せた。

 これは、明らかに取ってはいけない選択肢を踏んでしまった気がする。


「や、やっぱり、ボクに触れられるのも嫌なくらい怒ってる、よね……」

「い、いや、本当に違う」

「い、いいんだ。悪いのはボクなんだし。気が済むまで東野くんに謝るよ」


 西宮はすっかり勘違いして、背中にまで届く黒髪を垂らしながら俺に深々と頭を下げてきた。


「ち、違うから俺の言い訳を聞いてくれ」


 どうにも悪くもない相手からの謝罪は居心地が悪くて俺は顔を上げるように伝える。ゆっくりと上げた西宮の顔には元気がなく、落ち込んでいるように見えた。


「俺は本当に西宮に怒ってなんかない。ただ、今もそうだけど緊張してるだけなんだ」

「……へ、緊張?」

「そう。恥ずかしい話だけどな、女子と喋るのなんて一週間ぶりでスゲードキドキしてる。それを悟られたくなくてつい素っ気ない態度をだな……」


 頭をかきながら理由を説明する。本当に恥ずかしい話で頬が熱くなってきた。あー、熱い。恥ずい。でも、しょうがねえじゃん。普段、女子となんて何か機会がないと話すことがないんだから。


「あ、相手はボクだよ?」


 西宮は自分を指差しながら信じられないとでも言いたいように目を丸くしている。


「西宮だから何だよ」

「ボクを相手に緊張なんてしないでしょ?」

「は? するけど? っていうか、現在進行中ですけど何か?」


 既に恥ずかしい告白をしているからとムキになって答えれば西宮の頬が異常な速度で赤くなった。恥ずかしい思いをしてるのは俺の方なのに変なの。そう思っていれば西宮が首を激しく横に振り始めた。


「う、うそうそ。うそだよ。だって、相手はボクだもん」

「ボクだもんって西宮だって女子じゃん」

「そ、そうだけど……ボクだよ? 男子扱いされてるんだよ?」

「でも、女子じゃん」

「せ、背は大きいし、む、胸は小さいし……ぜんぜん、女の子っぽくないでしょ」


 西宮の言う通りだ。西宮はクラスで一番背が高くて、胸はそこら辺の女子高生と比べたら小さい方、なんだと思う。男子からは気軽に絡みやすい相手で女子からは憧れみたいな相手でよく男子扱いされている。


「けど、女子じゃん。西宮は女の子だろ」


 顔はどっちかって言えば可愛い方だし、髪だって背中に届くくらいまで伸ばしていて、俺にとって西宮は女子以外の何者でもない。緊張しない方が無理な話なんだ。


「西宮?」


 石のように固まっている西宮の反応が気になって声を掛ければ西宮が飛び跳ねながら後退った。それから、指を俺に向けてくる。西宮の人差し指は激しく震えていた。


「あ、う、ぼ、ボク帰るっ!」


 一方的に言い残して西宮は足早に去って行った。


「何だったんだ……あ」


 もしかして、大して仲良くもない男から女の子として意識してます、なんて言われて気持ち悪かったんだろうか。おおいにあり得るな。そりゃ、関わりたくないって思うのも当然だ。

 でもさ、しょうがないじゃん。緊張するものはするんだからさ。あー、ほんと緊張した。まだ心臓がドキドキしてる。

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