毎朝会う他校の塩対応イケメンとただ会話するだけの話

@0m0daka

#1.カラオケ


2年生になって少しずつ慣れてきた、そんなまだ少し肌寒い朝。


「陽キャって毎日放課後カラオケ行ってるよね」

「まぁ、テスト終わりとか結構行きますよ。高校生は」


スポドリを片手に持った爽やかな男、塩見くんが答える。

ベンチに座っている私と、近くで立っている彼とは、微妙に距離がある。

彼とは数週間前にこの公園で意気投合?し、平日の7時から話す仲である。


朝からランニングをする塩見くんと乗り換えのバスを待つ私、高校はもちろん中学も違う。

知ってることは、家がこの辺ってこと、高校が私の家の近くなこと、そして1個年下ってことだけ。



「まぁ、僕は金がもったいないんで誘われてもあんま行かないっすけど」

「ふーん、誘われるのね」


「あっ、先輩は誘ってくれる友達いないんですね!どんまいです♡」


スポドリを持っていない方の手でガッツポーズして煽ってくる。おまけにさっきまで真顔だったくせに満面の笑みだ。塩見くんリストに“生意気”って足しておこう。


「平日は無理だけど、休日遊んだりはするわよ!ただ、2,3人だけど」

「友達いるんすね」

「私をなんだと思ってんのよ」


少しショックそうなのは何でだろう。


「それで質問なんだけど、今どきの高校生はカラオケで何を歌うのが定番なの?」

「あんたも今どきだろ」

「まぁ、たしかに私も青春を謳歌している今どきのJKだけど、そこは陽キャのあんたのほうが知っているでしょ?」


「言い方がばばくせぇ」


塩見くんの方を見ると、めっちゃツンとした顔になってる。さっきの満面の笑みはどうやらSRのようだ。


「今度、部活の人とカラオケ行くことになったんだけど、何を歌おうか悩んでたのよ」

「好きな歌にすればいいじゃないですか」



「恋愛サーキュレーションを全力で歌って、友人を苦笑いさせたことがあるんだけど」


「その性格で撫子ちゃんになれると思ってんのか」


「通じるのね」


前の世代のアニソンしかわからないと言うと、横から「はぁ」とため息が聞こえる。出会って少ししか経ってないけど、遠慮のない言い方ですごく楽だ。人と話すのが苦手な私でも、素で話すことができる。まぁ、たまに失礼だけどね。


「じゃあ、仕方ないっすねぇ」

と言いながら、ポケットからスマホを取り出す塩見くん。多分あれは最新機種のiPhone。入学祝に買ってもらったって言ってたっけ?


「アップルミュージックかspotify入れてます?」

「spotifyなら入れてる」


少しスマホを操作し、


「じゃあ、僕のおすすめのプレイリスト共有してあげます。優しいので!!さぁ、なんかSNS交換しましょ」

「ごめん、スマホ学校に置いてるの。昨日忘れちゃって」


「ドジかよ」


「言い返す言葉もないわ……」


多分、無表情なんだろうなと横を見ると、そっぽ向いてて顔までは見えなかった。多分、あきれてるんだろうなと思う。


「とりあえず、先輩のひっくい声なら男性アーティストがいいんじゃないすか。ドラマの曲とか、CMなら歌えるでしょ」


「えー。聞いたことはあるけど……歌えるかな?」


「そこは聞きまくるしかないです。多分、ここら辺なら音域的に行けると思います」


しゃがみ込んでスマホの画面を見せてくる。顔、近い。イケメンって肌もきれいなのか。むかつくな 。私がスマホを見ずに、自分に視線を向けていることに気づいた塩見くんは、むすっとし、顔を離しスマホだけを近づける。


「セクハラですよ」

「ノータッチだからセーフで」


いやぁ、ほんとイケメンっていいね。眼福、眼福。

画面を見てみると、うっすら聞いたことがある曲がちらほら。これから歌える気がする。


「ほうほう、いいチョイス」

「センスの塊ですから」


真顔で言うのね、言葉と顔があってないぞ。


「それより、先輩が乗るバス。あれですよね?」

「ほんとだ、もうそんな時間か」


立ってみると、公園内のベンチからでもバスが来ているのが見えた。

心なしか明るさが増した気がする。

リュックを背負い、セカンドバッグを手に持つ。バッグを持ってない手で塩見くんに手を振りバス停に向かう。


「んじゃ、また明日ね」

「寝過ごさないように~~」


ゆる~く手を振ってくれた。

バスに乗って座ると、窓から塩見くんがまた軽やかに走り出すのが見えた。朝からほんとすごいな。


とりあえず、学校についたら部室にあるスマホを取りに行こう。

そして、帰りのバスで聴くプレイリストを作ろうかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

毎朝会う他校の塩対応イケメンとただ会話するだけの話 @0m0daka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ