ご主人様の縄 【翠3】
國村城太郎
第1話 二人のきっかけ
マリコSIDE
色んな、そう普通の女性なら一生経験することのないような、頭のおかしい沢山の経験をして、性的には満たされた日々だった。
そして、干支が一巡りした今年。私はついにご主人様の元を去った。
学生時代の同級生や、会社の同期の結婚式ラッシュがここ数年続いていた。
年賀状で赤ちゃんを抱いてる姿が眩しかった。
元ご主人様は父親に近いくらいの年上で、誰もが名前を知ってる大手企業で課長をしているエリート会社員で、余裕があって、顔も良くて、SMの経験も豊富で、縄も上手で……当たり前のようにすごくモテた。勿論結婚もしていて子供もいるらしいので、正月とかGWとかクリスマスを一緒に過ごしたことはない。
私以外にも惹かれてご主人様と呼ぶ女の子も何人も居て私はその中の一人に過ぎなかった。
ずっとこの人のそばにいることが幸せだと思って、満足して来たはず。なのに、将来の不安が突然襲って来た。同時期に、職場の配置転換があり、新しい現場でのストレスが重なったある日、突然、世界の色が失われて、私は壊れた。
メンタルクリニックの診断書をもらってしばらく仕事を休職して引きこもった。日中殆ど出かけることができず、精神的にSMに向き合えなくなった私はご主人様に相手をしてもらえなかった。
どん底の気持ちの中で、ついに別れを切り出すことができて、心が解放され、やっと私は静かに落ち着いていくことができた。
それからしばらくしてやっと食欲が戻って来て、泣きながらご飯を食べるのに付き合ってくれたのは、ご主人様が私のそばにいない時に、時々遊びに行ってた緊縛サロンの
「食べれるなら、もう大丈夫ね。回り道して来ても、ちゃんと次に行くべき場所は自然と見つかるもんだよ」と笑いながら、泣き続けて、後悔ばかり口にする私に、
「技術優先でダメだったんだから、次はいっそのこと人柄や独身とか恋人として優先すべきことで相手を探してみたらどうかしらね?自分の好みに育ててしまえばいいのよ」そう
「なんだか、自分のことみたいで、すごい楽しそうですね?」
「どんなのか一度見てみたかったのよね。最近ここで出会ったって言う、カップルが遊びにくるのよ。マリコちゃんも頑張ってね」
素敵な女性だけど、彼女もきっと色々経験して来たんだろうな?と思う。
私は久しぶりに優しい気持ちで寝ることができた。
SIDE END
シンジ SIDE
街歩き中で見つけた小さなギャラリー、写真展をやっていた。自分では撮ったことのない、女性のフェティッシュなポートレートの展示。
その中に裸体で縄で縛られている女性の写真に出逢った。緊縛される女というシンプルな表題のその写真に、魅せられた。
10分以上無言で僕はそのままその前に立ち尽くしていた。
その美しいものは私がずっと求めてやまない、足りなかった何かなんじゃないか?僕はそう思っていた。それはとてもおかしな様子だったろう。
家に帰って緊縛について調べる。自分もあんな写真を撮ってみたいと思い。
緊縛の検索結果の中に出ていた、SM専用出会い系サイトに登録してみた。
何度もメッセージを送ってみるが経験もない自分はなかなか相手にもされず、少し諦めが入ったある日、女性側からのお誘いのメッセージが入った。
学生時代は人並みに恋愛もしていたが、社会人になってからは仕事が楽しくて、女性に縁のない生活をして来た。
とにかく失礼のないように気をつけながら、メッセージを送り合う。
メッセージをくれたマリコさん。経験10年以上というプロフィールの文字に、少し怯むけれど、せっかく向こうから声をかけて来てくれたのだからと、、丁寧にメッセージを考えて送る。
お酒と甘いモノが好きなこと、同じ作家の小説を愛読していたこと。
少しずつ相手の輪郭が出来上がってくる、半月ほどのやり取りを経て、そろそろ顔を合わせてみたいなと、彼女に興味を持っていたが、なかなか言い出せない。そんな日常を楽しんでいた。
SIDE END
マリコSIDE
私の経験を見て、どんなことしてきたの?とか、性奴隷にしてやろうとか、初手から失礼なことを言ってくる輩はどんどんブロックしていった。
数人とやり取りをする仲、一人だけ会いたいとも言わず、M女ではなく、女性として一人の人としての私について、丁寧にやり取りをしてくれる人がいた。
シンジさん、未経験で緊縛に興味がある。
ギャラリーでみたという素敵な緊縛の話はするけど、直接的に縛らせてみたいな誘いはして来ずに、むしろ趣味とか、どんな食べ物が好きかとか、私を知ろうとしてくれる、そんなメッセージのやりとりが、新鮮で楽しかった。
しばらくやり取りした頃遊びに行った
「こないだわたしがメッセージ送った人達と、会話続いてる?」
「一人だけ続いてますよ」と私が返事を返す。
「あら、良いじゃない。で、どんな人?もうあったの?」好奇心の塊みたいな顔で聞いてくる。
「まだあってません。他はすぐにあいたがる人ばかりの中で、唯一すぐに会いたいと言って来なかった人なので。ただここまでやり取り続けてもまだ言って来てくれないんですけど……」と苦笑しながら答える。
「あら、まんざらでもない感じじゃない? どのくらいの頻度でやり取りしてるの?」
「1日に5通くらいやりとりしてますね。挨拶だけみたいなのじゃなくて、それなりの長文で文通みたいになってますよ。未経験だけど緊縛にすごい興味があるみたいですね。でもそういう話はこっちが聞いた時だけで、普段は好きな本の話とか、食べ物の話とかそんな話ばかりきいてくるんです。あ、一応お互い未婚で恋人も今はいないというのは、最初に確認してます」
「よさそうな人じゃない?嗜好よりまず人を見てくれてるってことですもの。」そう言うと、私の髪をフワッともちあげて言った。
「それに、この髪、前のご主人様の好みで長い黒髪だったのに、こんなに明るく染めちゃったのは、新しい自分で、顔を逢わせたい気持ちがあったんでしょ?」そう尋ねて私の顔を覗き込んでくる。
「じゃあ、こちらから会いたいって誘ってみましょうよ。そろそろ進展させても良いじゃない? で、会ってみて悪い人じゃなかったらここに一緒に連れて来てね」とまた少し悪い笑顔で誘ってくる。
「商売上手ですねぇ、でも、こちらから誘うんですか?」
「いいじゃないの、最初だってこっちから声かけた訳だし」
「えぇ、それ、わたしじゃないしぃ……」そう言ってみるが、結局わたしはお誘いのメッセージを、送らされてしまっていた。まぁ、そろそろ会ってみたいという本音もあって、それに気づいてるであろう
しばらくして、スマホから通知音が聞こえた。
「お返事来た? なんて? なんて?」好奇心いっぱいの顔で
「向こうもそろそろ会ってみたいって思ってたって、今度の土曜日どうですか?と誘われました」
「さぁ、早く行きますって返事しなきゃ」
「なんで
「今週の土曜日はうちのイベントもないし、行きたいんでしょ?素直になりなさい」
こうして私はシンジさんと初顔合わせに向かうことになったのでした。
SIDE END
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