サイキックわたる

Ren S.

第一部第0話『エスパー赤ちゃん、爆誕』

とある田舎で、1人の赤子が産声をあげた。


名は──渉(わたる)。


だがこの赤子、ただの新生児ではなかった。

産まれた瞬間からの全ての記憶を持っている。

光、音、におい、人の感情。全部、完璧に。


そして、渉が初めて聞いた母の言葉。


「生まれてきてくれてありがとう。これからは家族みんなで幸せになろうね」


ああ、いい言葉だ。心が温まる。


……が、同時に聞こえてきた母の心の声も忘れられない。


「は〜、初めての子がこんなブッサイクだなんて。旦那に似たのね…可愛がれるかしら。」


……こいつ、言ってることと心の声が真逆じゃねぇか。

てか、ブサイクって言うならなんでその顔の男と結婚したんだよ。


生後1日目にして、人生の理不尽を学ぶ。



母の心を読んだ渉は、ほんの軽い気持ちでこう思った。


「夜、父がお見舞いに来たとき、母が愚痴って気まずい空気になればいいのに。」



結果。

母はその夜、夕食にあたり3日3晩、嘔吐下痢で苦しんだ。


……いや、どの辺が“気まずい空気”だよ。

胃腸を気まずくしてどうする。


そう、渉には思ったことが現実になる能力があった。

ただし、ことごとくズレている。


渉は思った。


「この世界、チュートリアル雑すぎない?」


果たして彼はこの能力を使いこなし、

“平凡で幸せな人生”を送れる日は来るのだろうか──。





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