おっさんが本気になった恋 ―いまさら始める恋物語―
さすけ
第1話 出会いと始まり
どうも、冴えないおっさんです。
35歳。
仕事と家のローン、子どもの学費に追われて、心身ともに疲れ切った――ただのおっさんです。
そんなおっさんですが、たまには息抜きもします。
会社帰りに一人で居酒屋に寄ったり、同僚と軽く飲みに出たり。
妻とは長らくご無沙汰ですからね。
同年代の人なら、この気持ちはわかるでしょう?
去年の冬。
十年近く続いたIT下請けの仕事を終えて、新しい現場への移動が決まりました。
今年の春過ぎから始まった新しい職場は、上流工程のSE業務。
少しはやりがいがあると思っていたのに――。
「この現場、今月いっぱいで終わるらしい」
同僚からそう告げられたとき、ただ笑うしかありませんでした。
理由は、自分が来る前に起きた不祥事。
何も悪くないのに、先行きの見えない不安だけが残ります。
そんなモヤモヤを抱えたまま、同僚と飲みに出たある夜。
1軒目を終えて、同僚と二人……「入ったことないお店にいってみようか」なんて話になり、
いつもならキャバクラやスナックなんて流れでしたが、
普段とは違うことをしようと、おっぱぶに入ってみようという流れになりました。
……初めてのお店です。
このお店では「回転」というものがあるらしい。
1回転ごとに違う女の子からサービスを受ける形式みたいだ。
デフォルトは2回転。
一人目――よくわからないままサービスを受けましたが、
同僚と近い席はさすがに気まずい……。
「離してくれ」とボーイさんにお願いしたあと、
二人目で出会ったのが――「アリス」と名乗る女の子。
彼女は28歳くらいだと自己紹介していました。
笑顔の奥に、どこか影のある目。
その目に、ふと引き込まれたのを覚えています。
彼女は明るく振る舞いながら、私が吸うタバコの匂いを嗅いで言いました。
「この匂い、好き。……おじさんも、タイプかも」
アリガトー……なんて、お世辞を聞き流したつもりが、
……胸が高鳴る。
なんでかな、心がざわつきます。
膝が軽く触れ合うたび、柔らかく頭を焦がす匂いがふわりと漂う。
ときおり視線が合う。
笑っているようで、どこか泣きそうで、すがるような目つき。
アリスが「……ダメかな?」
「……ダメではないけど」
「……」
息づかいが近い。
冗談の延長みたいな仕草なのに、空気が一変する。
紅潮した頬、揺れる瞳。
おっさんはどこまでが冗談で、どこからが本気なのか分からなかった。
――不思議と動けなかった。
ふと、アリスの頬に涙があることに気づき、理由を尋ねましたが、
「ううん……大丈夫」とだけ。
不思議と心を揺さぶられる……。
「……LINEを教えてほしい」なんて言われましたが、
「やらないよ」とだけ答えました。
やがて時間が来て、彼女と別れを告げます。
延長はせず、店を出ました。
どうする? どこ行くか……なんてやり取りのあとに、
「もう一回、行っちゃうか?」
軽口を叩いたら、彼も乗り気で、結局再び店へ。
――指名はアリス。
予期せぬ再会に、彼女は少し驚いたようでしたが、すぐに笑顔を見せてくれました。
一度目では話せなかったことも、ぽつりぽつりと打ち明けてくれる。
過去のトラウマや、心の病を抱えていること。
そして、「もしよかったら外でも会いたい」――そんな言葉。
少し話したあとに、「電話番号でもだめ?」
「いいけど、妻帯者だよ」
「それでも……教えてほしい」
登録をしているときに、「私の実名はあきなの」と名乗りを聞きながら。
今までは、何があってもしなかったんですけどね……。
いや、ほんとに。
飲み終え、眠りに付こうとした時にスマホが震えます。
――「会いたい」
短い一文。
続けて送られてきた文章は、二万円という条件と、
「あなたなら、特別に……欲しい」
もちろん、興味がないわけではありません。
けれど、今までは乗り気になることはなかった。
ふと気づけば、短く。
――「わかりました」とだけ。
たしかな下心と、忘れていた何かを取り戻しながら、
おっさんは約束の日に向けて眠りにつきました。
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